眠れない夜をかぞえて
「ううん、本当のことだから」

「美緒のことをどこまで知っているのかは分からないけど、美緒の様子を見てチャンスを窺ってたんじゃないかな?」

「そう……なんだ……」

「で、どうしたいの?」

告白されて、どうしたらいいかわからなかったけど、どうしたいのと聞かれ、それはどういうことなんだろうかと疑問になった。

「どうしたいって?」

「一ノ瀬さんを好きで、付き合うとか付き合わないとか」

一ノ瀬さんは上司として尊敬していて、男性としてはとても素敵だと思っている。だけど、それ以上の感情はない。

「簡単なことよ。好きなら付き合いたいと思う……手を繋ぎたい、抱きしめて欲しい、キスだってしたい。そう思うのが恋じゃないのかな?」

「やだ、ちょっと」

それなりの経験があるけれど、一ノ瀬さんを意識したことがなかった。

「気持ちがないなら、はっきりと断る。それもすぐに。長引かせるのは一番失礼よ」

「……うん……」

そうだよね、とどうしてはっきり思うことが出来ないのだろう。濁すなんてありえない。一ノ瀬さんが同じ会社で働く人で上司だから? 断って気まずくなったら困るから? 

「……ポスターの絵コンテ」

「え?」

「一ノ瀬さんが他のモデルと絵コンテみたいなポーズを撮るの……嫌じゃない? なんだか嫌だなとか、此処がモヤモヤしたりしない?」

瑞穂が胸のあたりを示す。

舞台「ベッドタイムストーリー」の絵コンテは、上半身に白いシャツを羽織り、キャミソールを着た後ろ姿の女性を抱き寄せている。

それがベッドの上でポーズをとっているので、ポスターでありながら官能性を感じる。

その絵コンテを見て、男の絵に一ノ瀬さんの顔を重ねなかったわけじゃない。

「嫌だなんて……」

「じゃあ、断る。誠意をもって告白した人には、誠意をもって、はっきりと目を見て自分の気持ちを伝える。それが礼儀だと思うわよ?」

私は、ポスター撮りの担当だ。

一ノ瀬さんの撮影を見る側になる。憧れ、キレイ、素敵と思ってみることが出来るだろうか。

モデルとは言え、キャミソール姿の女を抱き寄せる一ノ瀬さんを、ちゃんと芸術の視点で見ることが出来るだろうか。

違う感情が混じったりしないだろうか。

こうして悩んで、自分で二択をしている時点で、一ノ瀬さんに何らかの感情があると言うことなのだろうか。

きっと瑞穂に言ったら、そう言うに決まっている。
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