眠れない夜をかぞえて
普通の会社より、ざっくばらんに上司と交流が持てる。それもこの業界の良い所だ。

シャインプロダクションは所属タレントも多く、子役から練習生までいる。

社屋は、レッスンルーム、仮眠室、もちろんシャワールームもサウナもある。

レッスンルームなどは、ダンス、ボーカル、楽器の練習が出来るようになっていて、それに、撮影スタジオもある。

記者会見が行えるような会議室もあり、ドラマや映画、舞台で使う小道具なども保管してある。

近年、この小道具が増えて、倉庫を借りるという話が持ち上がっている。普通の会社にはない設備と、部屋が沢山あるのが、シャインプロダクションの特徴なのだ。

「おはよう」

「瑞穂、おはよう」

着ていたカーディガンを脱いで、デスクのハンディ扇風機を顔に当てる。

「すっごく暑い……」

さらに顔にハンカチをあてて汗を拭く。

「しばらく続くわね」

「でも美緒は涼しい顔をしてるじゃない」

「早く目が覚めちゃって、いつもより早く出勤したのよ」

「……夢……?」

「違うわよ、夢で起きちゃうなんて、子供じゃあるまいし。さ、仕事」

とっさにはぐらかしてしまった。

月命日に、休みを取ってお墓参りをしていることも、直接哲也のことを話したこともない。

弟と付き合う前は、彼氏を紹介してあげると、世話好きの彼女は頻繁に合コンに誘って来たけど、弟の彼女でもある瑞穂は、弟から私と哲也のことを聞いたのだろう、誘いをぱったりとしなくなった。

そして、夢で眠れないことも知っている。心配をかけていることも分かっているけど、気持ちの整理がつかないのだ。

今年は哲也の七回忌だが、私の時間はあの時から進んでいない。


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