眠れない夜をかぞえて
スキャンダルは一向に収まる気配はなく、とうとう一ノ瀬さんは、当事者である外場悠を事務所に呼び出した。
これまで事情聴取などで、本人から直接話を聞くことが出来なかった。

反省をしている様子は見てとれ、本人と一緒に両親も事務所に謝罪に訪れた。

処分は重役会議で決まっていた「謹慎処分」とした。未来ある才能あふれた俳優をダメにしたくない。一ノ瀬さんはそう言っていた。

マスコミ向けには、謹慎の期限は設けないとしたが、警察からの処分が決定次第、活動を再開させるとなった。

「あとは、本当に別れてくれるかだ」

「気持ちは直ぐに切り替えられないですから。でも、本当に好きだったんですか?」

私が今の年齢で、坂田真帆と同じ8歳年下と付き合うとすると、弟より年下になってしまう。まったく相手にならないし、考えられない。

「悠は真剣だったようだ」

「ピュアですね」

「それが仇にならなければいいがな」

一ノ瀬さんは、別れて欲しいと思っている。

それは私も同じだけど、人の気持ちはどうにもならない。それは、私が一番よく知っている。

「これから先も、このことが付いて回りますね。悠は耐えられるでしょうか」

芸能界にいる以上、ずっと付いて回るスキャンダル。これからいい恋愛をしても、結婚をしてもずっとこのことが付いて回る。

「その覚悟がないと、この世界では生きていけない」

「確かにそうですね」

「ところで、制作発表の件だが、あとで打ち合わせをしたい。川奈にも言っておいてほしい」

「分かりました」

舞台の準備は着々と進んでいた。今回の題材は、主演俳優が是非やりたいと言っていた題材を取り上げた、タイトルは「ベッドタイムストーリー」。

子供を寝かしつけるために、語り聞かせるストーリーなのだが、それが現実の世界で起きてしまうというファンタジー映画だ。

今回の舞台は、主演俳優本人と演出家で全く別の設定にして、大人の舞台へと作り変えていた。

大人の男女がベッドで寄り添い、恋愛を語る。こいういう恋愛があった、こんな恋愛もあったらと語ると、映画同様現実の世界で起きてしまうと言う内容だ。

見ている者を官能と欲望を刺激的に演出する舞台となる。目くるめく官能の世界へ想像しながらいざなうのが今回の舞台だ。舞台では難しいラブシーンなど、演出の腕が試される。

主演の俳優は、これまで堅実な役が多く、20周年をきっかけに殻を打ち破るくらいの役を演じたいと強く希望した。

「瑞穂、稽古場のスケジュールはどうなってる? それと、明後日の差し入れどうする? 稽古初日よ」

「え~とね、ほとんどベッドタイムで埋まってるわよ。差し入れか、どうする?」

「買いに行っている時間がないわね」

「しーちゃんに頼もう」

瑞穂が言った。それはいい案だ。

シャインプロは大手の事務所だが、人手が足りない。これは大小関わらずこの業界の現状だ。

デスク業務は仕事の種類が多岐にわたるけど、人手が足りなさすぎる。

「しーちゃん、ちょっといい?」

門脇 静。彼女はアルバイトの大学生だ。マスコミの就職を希望していて、経験を積みたいとこの事務所でアルバイトをしている。腰も軽く、適応能力も高い。

「ベッドタイムの初日稽古が明後日から始まるの。それで、お茶の用意とお菓子の用意をお願いしたいんだけどいいかしら?」

「わかりました。お菓子は何がいいです?」

今どきの大学生はとってもキレイ。しーちゃんもとってもキレイ。

今どきと言うけど、私も卒業したのはついこの間のような気がするけど、時代はすごいスピードで進んでる。

しーちゃんは綺麗だけど、自分の綺麗さを武器にしない。

もっときれいに着飾って、メイクもしたらいいのにと言うのだけど、興味がないと言って、夏はTシャツとジーンズか短パン。冬はトレーナーにジーンズと言ったスタイル。

本当にもったいない。

そんな彼女は、すぐにメモを取る。今も、ペンとメモ用紙を持って走って来た。

「初日は読み合わせから始まりますし、飲み物と飴などの喉を潤す物はどうですか?」

私は思わずうなった。

「さすがしーちゃん。ね、瑞穂」

「しーちゃんこのままここに就職してよ」

「私は、テレビ局希望ですから」

「え~、ここにしなよ~」

瑞穂の駄々っ子みたいな誘いにも大人の対応で、すんなりと交わす。

彼女は、差し入れリストも作っていて、困った時のしーちゃんで、いつも聞いてしまうのだ。

以前は瑞穂と一緒に情報収集をしていたのに、してくれる人が現れると途端にやらなくなる。いけないことだ。

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