君は無垢なフリをして​───本当は野獣。
「私はね、こう…耳の奥まで響くような、低い声が理想なの。」



うっとりとした表情で語る。
理想を述べた従妹は幸せそうだ。



「そっか。いつか出会えるといいね。」


「うん!…あ、花菜ちゃんの〝桜くん〟は見つかったの?」


「あー…」



綾香の言う、(さくら)くんというのは簡単に言うと、中野 神弥のこと。


初めて見た時、桜に紛れて歩いていた彼。


それを綾香に話すと、綾香は満面の笑みで「じゃあ桜くんだね。」とあだ名をつけた。


その桜くんが…


あんな男だったなんて…



「ハァ…」


「…花菜ちゃん?」



綾香が不思議な顔をして私の顔を覗き込む。



「どうしたの?」


「あ、ううん。桜くんは…見つかったよ。けど…」


「けど?」



中野 神弥が桜くんだなんて…


信じたくないんだよね。
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