ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
6. 9月

隆春



 それぞれの夏休みも終わり、でもまだ暑い日が続く。
 会社の中は冷房が効いていて涼しいけど、外に出ると汗だくになる。
 昼休みから戻ってきた本田さんと中村さんも、例に漏れず汗だくだった。
「あー早く涼しくならないかなー」
「ほんと、暑いの苦手ですー……」
 中村さんがぐったりしている。
 本田さんは、持っているハンドタオルでパタパタと中村さんに風を送った。
「美里ちゃん、もうちょっとで涼しくなるから頑張って」
「……せんぱあい……ありがとうございます。元気出します!」
 中村さんが復活したので、本田さんは風を送るのを止めて、ハンドタオルで汗を拭く。
 俺が、そのハンドタオルを見ているのに気が付いて、本田さんは笑顔になった。
「これ、肌触り良くて。可愛いし、お気に入りなの。ありがとね、須藤君」
「いえ、気に入ってもらえて良かったです」

 本田さんが持っているハンドタオルは、俺が帰省した時に買ってきたお土産だ。
 俺の地元の隣の県は有名な犬の産地で、グッズも数多くある。駅や高速道路のお土産ショップには近県の物も置いてあり、その中に犬グッズもあるのだ。
 本田さんは、ハンカチよりハンドタオルを持っている方が多いから、その犬グッズのハンドタオルを買ってきた。
 グッズの犬は、ケンさんに似ている。ケンさんは雑種だから、もしかしたらその犬種の血が混ざっているのかもしれない。
 これを渡した時、本田さんは最近で1番の笑顔をくれた。
 思い出すだけで、ほっこりする。

 ちなみに、本田さんだけに渡すと不自然だと思い、中村さんにも同じ物を渡した。
 一応お礼は言ってくれたけど、意図はバレバレのようで、本田さんが凄く気に入っているのを見て「そんなに好きなら、これも使ってください」と、その日にあげていた。
 仮にも自分があげた物をすぐに他人に渡されたのはちょっと複雑だったけど、本田さんが喜んでるからまあいいか、と思った。

 本田さんは帰省の土産を、みんなとは別にちょっと高そうなお菓子を買ってきてくれて、お返しね、とくれた。
 中身は和菓子で、6個入り。
 1日ひとつずつ味わって食べた。箱と包装紙は大事にしまってある。

 そして本田さんは、帰省した時のケンさんの大量の写真を見せてくれた。
 その中に、本田さんとケンさんが一緒に写った写真があった。お姉さんが撮ったものらしい。
 それは、本田さんが凄くいい笑顔で写っていた。
 身内にしか見せない、心からの笑顔。
 俺は、ケンさんがカッコ良く写っているから、という理由をつけて、その写真をもらった。
 待ち受けにしたいくらいだけど、当然そんなことはできないので、いつでもすぐに見られるように専用のフォルダを作った。
 ふとした時、もちろん1人の時に見て、元気をもらう。

 冷静に考えると、ちょっと気持ち悪いかもしれない。

 俺は、絶対に他の人に知られないようにしようと、改めて決意した。



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