ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 日中でも長袖が必要になってきた頃。
 会社の帰りに、原田さんを見かけた。
 スーツを着た男の人と歩いていた。
 たまたま一緒だった井上君も、それを見ていた。
「彼氏かな」
「さあ。合コン行ったとは聞いたけど。できたんじゃない?」
「須藤、ホッとしてる?」
 井上君は、飲みに行っていたらいつのまにか俺を呼び捨てにしていた。俺も呼び捨てでいいと言われて、時々そうしている。
「してる」
「正直だなあ」
「嘘ついてどうすんの」
 井上君は、はははと笑った。
「原田さんはまあ置いといて、最近他からも言われてるよね。須藤がにこにこするようになったから」
「……まあ……そう、だね……」
 中村さんの忠告に従って愛想を振りまくようななってから、またいろんなお誘いが来るようになった。
 でも、なんだか前のお誘いとは質が違うようだった。
 前は、みんなで飲みに行くから、という軽いノリに近かったけど、最近のは。

「あの、もし良かったら、今日食事に行きませんか?駅ビルに新しいお店ができて……」
 呼ばれて廊下に行くと、総務課の……確か同期の、誰だっけ……が、こう言った。
「悪いけど、今日残業だから」
 こういう時も愛想を振りまいておけ、との中村さんの忠告に従って、口の端を上げる。
「ごめん、今忙しくて」
 忙しいのは本当だ。大きな仕事の納期が明日に迫っていて、うちも隣のチームもみんな残業決定だった。下の階のチームからも応援を呼んでいるくらいだっていうのに。
「あ、ごめんなさい、邪魔して」
「じゃあ」
 素早くフロアに戻る。愛想は振りまいたから、もう呼び止められないように。

 こんな風に、2人でのお誘いが多くなったのだ。
 わざわざ呼び出されたり、帰りがけに呼び止められたりする。
 軽いノリではなく、デートの誘いだ。
 もちろん全部断っている。愛想を振りまきながら。
 早く前みたいに、この人は誘っても来ない、と認識されないだろうか。
 いっそのこと、好きな人がいる、と公言してしまおうか。いや、そんなことをしたら、絶対に本田さんの耳にも入って、変な誤解をされる。それはやめておこう。



 席に戻ると、みんなパソコンに向かって集中していた。
 もちろん本田さんも。
 その綺麗な横顔に元気をもらって、俺は作業を始めた。



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