ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


「まあ、なんにしろ本田は俺が知る限り、恋愛してないからな。前の彼氏は流されて付き合っただけだ。自分のことには鈍感だし、恋愛偏差値は低いぞ」
「小田島さんが知る限りって、社会人になってからってことですか?」
「そう。前にも言ったろ?流されて、2ヶ月付き合ったヤツが、学生の時以来久しぶりにできた彼氏。それ以外はなにもないはずだ。言い寄ってきたヤツは何人かいたけど、全部断ってる」
「僕も、千波ちゃんのこといいなって言ってる人は何人か知ってるけど、みんな断られてるね」
「あいつ頑固だからな。なんかが引っかかると駄目らしいよ。あと人見知りだから、よく知らない人はそれだけで駄目。自分で、それじゃあいけないなって思ってた時に、ちょうど合コンに連れ出されて、流されたんだってさ」
 俺が入社する前に、酔っ払った本田さんが愚痴っていたんだそうだ。
「結構ひどかったらしいね、その彼氏」
「合コンだからな。本田の上っ面だけしか見えなかったんだろ。そんなに簡単なヤツじゃないぞ、本田は。まあ、須藤はわかってるだろうけど」
 小田島さんはニヤニヤしている。
「あんだけだだ漏れの好意を向けられても気付かないからな〜」
「そうだね、チラッと見ただけの僕でもわかったくらいなのに」
「え、筒井さん見てたんですか?」
「うん。この前一緒に帰ってるの見たよ。2人共楽しそうでさ、ほんわかしてて、微笑ましかったよ」
 恥ずかしくなってうつむく。
「あんなにリラックスしてる千波ちゃんも珍しいよね」
「え……」
「須藤君には大分気を許してるんだなって思ったよ。恭子も、そう言ってた。だから、ちょっと協力してあげようかなって」
 だから、ザッハトルテとチョコレートチーズケーキ?……そうだったのか。
「凄く大好きみたいなのに、千波ちゃんの反応を見ながら接していて、手を出さない。自分の気持ちを一方的に押し付けることもしない。千波ちゃんをそんなに大事にしてくれるんなら、任せてもいいかなって、言ってたよ。僕もそう思う」
 筒井課長の笑顔の中に真剣さが増した。
「なにも今すぐ結婚しろって言ってる訳じゃないんだよ。でも、適齢期の女性に付き合ってって言うのに、結婚のことを考えるのは当たり前だよね。結婚のことだけじゃなくて、当たり前のことを当たり前にできる人に千波ちゃんを任せたいんだ。恭子も、僕も」
 まっすぐに見つめられる。
 真剣な空気をかき回すように、小田島さんが言う。
「ほんと、お前ら夫婦は本田に甘いよな」
「恭子の大切な友達だからね。僕にとっても大切だよ」
 筒井課長はサラッと言うけど、筒井さんのことが本当に好きなんだなあ、とわかってしまう。
 当たり前に、奥さんを、大好きな人を大切にしている。
 当たり前のことを当たり前に。

 俺も、真剣に答えた。
「わかりました。ちゃんと考えます……前向きに」
 俺の言葉を聞くと、筒井課長はにっこり笑った。
「ありがとう、須藤君。恭子には、ちゃんと報告しておくよ」
「はい……よろしくお願いします」
 頭を下げた。
 ありがたかった。味方ができたのも嬉しかったし、本田さんの大事な人達に認めてもらえたのも嬉しかった。
「でもさ」
 小田島さんが人差し指で頭をかきながらうなる。
「本田は、あんまり考えてないかもしれないぞ」
「なにを?」
「結婚」
 いやいやいや、たった今、俺は前向きに考えるつもりになったのに。
「どういうこと?」
 筒井課長も訝しげだ。
「これはさ、本田に限らずシステム課に来る女の人の傾向なんだけど」
 小田島さんは、人差し指をこめかみに当てて、目を閉じる。何かを考えながら話す時の癖らしい。時々見る仕草だ。
「まがりなりにも技術職だろ?給料もそれなりで悪くない」
「あー……」
 筒井課長は、小田島さんがなにを言いたいのかわかったらしい。
「結婚なんてしなくてもいいや、って考える人は多いんだ。まあ職場は男の方が断然多いから、大抵相手が見付かって結婚はするんだけど」
 小田島さんは、ビールを飲んで続ける。
「本田は仕事好きだし。精神的にも自立してるし。結婚なんて自分とは無縁だと思ってるかもしれないよな」
「その可能性はあるねえ……」
 えっと……じゃあ俺はどうすればいいんだ?
「あっでも、それとこれとは別だぞ。須藤が結婚したいって言えば考え直してくれるかもしれないし」
 小田島さん、焦らなくても大丈夫です。
「そうだね、恭子も同じ考えで経理やってるけど結婚してるし」
 筒井課長まで焦らないでください。
「僕もかなり苦労したから、須藤君も覚悟しないとね」
 えっ?
「恭子も頑固だったなあ……」
 筒井課長は思い出をかみしめているのか、遠い目だ。
「あの、苦労っていうのは」
「あ、聞きたい?」
「須藤やめとけ。長くなるぞ」
「聞きたいです」
「だからやめとけって」
「恭子が入社してきてさあ……」

 この後、日付けが変わるまで、たっぷりと筒井夫妻の馴れ初めを聞いた。
 筒井課長は、押しに押したことがわかった。
 参考に……できるかどうかわからないけど、頑張った話を聞いたら、自分も頑張ろうと思った。



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