ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
2月14日。
俺は、鞄に、千波さんに渡す本命チョコを忍ばせた。
問題は、いつ渡すかだ。
できれば、仕事が終わってからがいいんだけど。
今、仕事の波は落ち着いていて、おそらく今日は定時で帰れてしまう。
送る理由を『遅いから』としていたから、遅くない時は送れない。いや、別に構わず送っていいんじゃないか、と、脳内会議をしながら出社した。
エレベーターを待っていると、背中をポンポンと叩かれた。
振り返ると、前に食事に誘われたことがある総務の、確か同期の、誰だっけ……がいた。
「須藤君、ちょっとだけいい?」
ホールの隅の、陰の方に連れて行かれる。
「これ、受け取ってください」
差し出されたのは、いかにも『本命チョコ』の包みだった。
目が点になった。
自分が千波さんに渡すことばかりを考えていて、渡される方でもあるということをすっかり忘れていた。
「ごめん、悪いけど、受け取れない」
こういう時はどうすればいいのか、中村さんに聞いておけば良かった。多分、いつもの愛想笑いじゃ駄目だろう。単純に、目の前の人に申し訳ないな、と思った。
その人は、俺の顔を見て、苦笑した。
「そんな顔しないで。当たって砕けるつもりだったから、いいの」
そんな顔って、どんな顔なんだろう。正解だったんだろうか。
と思っていたら、思いがけないことを言われる。
「本田さんが好きなんだよね?」
頭の中は真っ白になった。
「見てればわかるから。でも、このままじゃ嫌だったから、ちゃんとしたくて。ごめんね、ありがとう」
その人は、笑って去って行った。
真っ白な頭の中で、千波さんじゃなくても、笑顔は素敵に見えるんだな、と思った。
フロアに着くと、ちらほらと人が来ていた。
いつもはこの時間なら来てても1人くらいなのに珍しい、と思って鞄を置こうとしたら、デスクの上にカラフルな包みが置いてある。
これはもしかして、と思って見てみたら、やっぱりチョコレートだった。
カードが付いていて、差出人は営業部の高橋さん。羽田さんの補佐をしている人で、確か2期上だったはず。何回か話をしたことがあった。
人が来る前に、と思って急いで下のフロアに向かった。
高橋さんは、もう仕事を始めていたようだ。デスクにいる。幸い、他には誰もいなかった。
「高橋さん」
声をかけて、近付いていく。
高橋さんは驚いた顔をして立ち上がった。
「これ、すみません、受け取れません」
頭を下げて、包みを差し出す。
「え、あの……」
「申し訳ありません」
頭を下げたままでいたら、高橋さんがクスッと笑った。
「わざわざありがとうございます。須藤さんの気持ちはわかりました」
包みを受け取ってもらって、俺はやっと顔を上げた。
「やっぱり駄目だったなあ」
「え……」
高橋さんは苦笑している。
「知ってました。須藤さんに好きな人がいるの。でも、受け取ってもらえるだけでもいいって思ったんですけど。返されちゃった」
「あ……すみません……」
「いいんです。あんなに大好きオーラ出してるの見たら、あきらめるしかないかって思いますし」
ああ、ここでもバレてる。
「最初はビックリしたんです。いつもクールなのに、笑っておしゃべりもするんだって。でも、それはあの人限定だって、すぐわかりました」
高橋さんの笑顔も、素敵に見える。
「悔しいけど、これは今日のおやつにします」
俺は、もう一度頭を下げた。