ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
食事中心の時間が終わると、リビングに移動してお酒の時間は続く。
今更だけどお客様だから、ということで、千波さんと並んで2人がけのソファーに座らせてもらった。筒井夫妻はそれぞれソファーの脇にクッションを敷いて座っている。
ワインは2本目になり、みんなちょっと酔っ払ってきていた。
特に千波さんは、珍しく顔が赤くなってきていて、ふにゃふにゃし出している。凄く可愛い。
「須藤君のグラタン、おいしかった〜!」
何度目かのお褒めの言葉をいただく。
「ありがとうございます。水も飲んでくださいね」
「はあ〜い」
千波さんが素直に言うことを聞いて、水を飲む。
なんだか、保護者気分だ。俺がいないと駄目なような、そんな気分になる。
しばらく談笑していると、千波さんがソファーに座ったまま、うとうとし始めた。
凄く眠たそうだ。目が開いてない。
可愛い。そのままこっちに引っ張って膝枕してあげたい。
筒井さんが千波さんの様子に気付く。
「えっ!千波、寝るの?」
「んー……」
「ちょっと待って、あっちに布団敷くから、おーいちなみー」
千波さんはもう半分寝ている。
筒井さんは、何故か千波さんと俺を見比べて、ククッと笑った。
なんだろう。なにかしたか?
「カズ、和室に布団敷いて」
筒井さんは何事もなかったように課長に言う。
「はーい」
筒井課長がリビングの隣の部屋に向かった。
カズって呼んでるんだな、なんて思っていたら、筒井さんはニヤニヤしながら俺に言った。
「須藤君、千波連れてってあげて」
「え……」
隣にいる千波さんを見る。
横になろうかという感じに肘掛けにもたれかかっている。
「布団に突っ込めばいいから」
「はあ……」
連れてくって、どうすればいいんだ?
とりあえず声をかけてみる。
「本田さん、起きてください」
「……えー……」
千波さんは眉根を寄せている。
「本田さん、布団に行きますよ」
「んー?あ、須藤君だ」
へへへと笑う。可愛い。
「あっちの部屋に布団があるそうなんで、行きますよ」
「はあい……」
返事はするものの、動かない。
仕方なく、肩をトントンと叩く。
「本田さん、風邪引くから布団行きますよ」
「んー……」
目が開かないまま、立とうとはしているらしい。手をぱたぱたさせている。
その手をつかむ。やわらかくてあったかい。
「はい、立ってください」
「……はあい……」
力が全く入っていない。
仕方がないので、手を引っ張ってみる。
立ち上がったけど、自力では立っていられないので、俺に寄りかかってきた。
抱きつかれる格好になる。
やばい。
可愛いし、やわらかいし、あったかいし、いい匂いもする。
体中のいろんなところが騒ぎ出す。
理性よ、頼むから働いてくれ。ここは筒井さんの家だ。
筒井夫妻は、空いている皿やグラスをキッチンに運んでいる。
注目はされていないけど、不埒なことができる訳がない。
「はい、歩いてくださいね」
変なところに触らないように、千波さんを抱えて和室に向かう。
千波さんはかろうじて足を動かしてくれた。
和室の真ん中に敷いてある布団に座らせて、ゆっくりと寝かせる。
千波さんは、枕に頭をつけた途端、気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
足元にたたんであった掛け布団をかける。
寝顔が可愛い。無防備で、子どもみたいだ。
やわらかそうなほっぺたに、少しだけ触れてみる。指の先で、そうっと。
見た目通りやわらかくて、すべすべしていた。気持ちいい。
ほっぺたの横には、ちょっと開いた唇。そっちも触りたいけど、多分触ったら、今度はキスしたくなる。止められない。
ぐっと我慢する。ここは筒井さんの家だ。
代わりに、頭を撫でる。
初めて触れる、やわらかい髪。ふわっといい匂いがした。いつも近付いた時にする甘い匂いは、髪からしてくるんだとわかった。
体中のいろんなところは、騒いだままおさまらない。これ以上ここにいたら、我慢できなくなってしまう。
千波さんの髪から手を離し、ぐっと握りしめて、立ち上がった。
音を立てないように引き戸を閉めた。
時計を見たら11時だった。
筒井さんが、キッチンから出てきた。
「千波、寝たの?」
「はい」
「ふうん……」
筒井さんは意味ありげにニヤニヤ笑っている。
対して、筒井課長はにこにこだ。
「須藤君はどうする?泊まっていくなら、このソファー倒してベッドにするよ」
「それとも千波の横に布団敷こうか?なんなら一緒の布団でもいいけど」
「ああ、そうする?ならいろんな手間が省けそうだね」
俺は慌てた。どういう意味だよ。
「いっ、いやいやいや、帰ります。まだ電車あるし……」
これ以上ここにいたら、いろんなことが我慢できなくなりそうだ。
「なーんだつまんないの」
筒井さんは、まだニヤニヤだ。明らかにからかっている。
「じゃあ駅まで送るよ。アイス食べたいってうるさい人がいるから」
筒井課長の後ろで筒井さんがうんうんと頷く。
ついでがあるなら断る理由はないので、課長と一緒に外に出た。