ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜

千波




 ぐっすり眠って、目が覚めた。
 自分の家かと思ったら、天井が違う。
 ああ、ここは恭子の家だと思い出す。

 あれ?私、昨夜はどうやって寝た?
 ソファーで飲んでて、なんだか気持ち良くて。
 その後が思い出せない。

 起き上がって、周りを見る。
 恭子の家の、リビングの隣の和室。ここに泊まらせてもらう時は、いつもこの部屋。
 服は昨夜のまま。ということは、飲んでて酔っ払って、そのまま布団に入ったのかな。酔って記憶を無くすこともあまり無いんだけど。
 考えながら布団をたたんで和室を出ると、リビングのソファーに筒井さんと恭子が座っていた。
 2人が振り返る。
「おはよ」
「おはよう、千波ちゃん」
「おはようございます。あの、すみません、急に来て泊まったりして」
 筒井さんに頭を下げる。
「そんなこと気にしなくていいよ。いつでも泊まりに来て」
「そうだよ、いつでも大歓迎なんだから」
 2人共、いつもこう言ってくれる。ここは、居心地のいい家だ。
「千波ちゃん、二日酔いじゃない?朝ご飯食べられる?」
 筒井さんが、キッチンに移動しながら聞いてくれる。週末の料理は、筒井さんが全てをやることになっているんだそうだ。
「二日酔いは大丈夫ですけど、軽くでお願いします」
「了解。じゃあ座って待ってて」
「ありがとうございます」
 恭子がコーヒーカップを持って、ソファーからダイニングに来る。私も、恭子の向かい側に座った。
「よく眠れた?」
 恭子はニヤニヤ笑っている。なんなんだろう。
「うん。自分家かと思うくらいよく寝た」
「昨夜のこと、覚えてる?」
「あんまり……ソファーで飲んでたところまでは覚えてるけど、その後の記憶がなくて……あれ?須藤君は?」
 そういえば、須藤君の姿が見えない。昨夜は彼もいたのに。
「昨夜のうちに帰ったよ。千波を寝かしつけて」
「え、寝かしつけてって?」
「言葉のまんまよ。珍しくソファーでうとうとしてたから、布団敷いて、須藤君に連れてってって頼んだの」
「え……どうやって?」
 まさか抱っこされたとか?
「手引っ張って、立たせて、支えながら連れてったよ。あんたもかろうじて歩いてたし」
「ああ……迷惑かけちゃったんだね」
「んー、向こうは迷惑じゃなかったと思うけど」
「だって布団まで連れてってくれたんでしょ?」
「何を迷惑と思うかは人それぞれってことよ。それよりさ」
 恭子が更にニヤニヤする。
「気付かない?」
「何を?」
「眠れたね。人が近くにいても」
 一瞬、何を言われてるのか、理解できなかった。
「ソファーでも、すぐ横に須藤君がいたのに、うたた寝してたよ」
「あ……」
 そうだった。酔ってたせいもあるんだろうけど。
「須藤君が起こしてもなかなか起きないし。布団に行く時も、支えながらっていうか、ほとんど抱えてた感じだったしね。千波は、ほぼ寝てた」
「……だから覚えてないのかな」
「多分ね」
「私、随分飲んだんだね。その割には二日酔いじゃないけど」
「そう?千波がそう言うんなら、そういうことにしといてもいいけど」
 恭子の言い方は、何かを含んでいる。
「私の記憶の限りでは、千波が誰かの側で、そんな風に眠れたことって、話の上でもないと思うんだけど」
 ……確かに、ない、かも。

 私は、誰かが側にいると、眠れない。
 多分、緊張してしまうからだと思っている。
 友達も、家族でさえも同じだ。
 1番仲の良い恭子も、母親でも。
 だから、誰かと旅行に行くと、部屋が別々でない限り寝不足になる。
 学校の旅行は楽しかったけど、眠れないから辛かった。特に高校の修学旅行は3泊だったから、帰ってからとにかく寝た。

 彼氏ができても、同じだった。
 大学生の時に付き合った人も、駄目だった。どうしても一緒にいると眠れなくて、相手には信用されていないと思われて、段々ギクシャクしてしまって、別れた。
 社会人になって付き合った人とは、眠るどころか起きていても気を許せなくて、そんな雰囲気にもならなかった。この人は、私のことを『言うことを聞いてくれるお人形さん』のように誤解していて、彼女になる人にはそれを望んでいたから、どのみち私には無理だった。

 ところが、昨夜は違ったみたいだ。

 会社の隣の席の後輩、須藤君。
 須藤君がソファーで隣に座っているにも関わらず、うたた寝をしていたらしい。
 今までなら、あり得ない。
 しかも、布団に連れてってもらってそのまま眠ってしまうなんて。その間も、ほとんど眠っていた状態だなんて、本当にあり得ない。
 別に徹夜明けで眠くてしょうがなかった訳でもない。お酒は飲んでたけど、酔ってたから他人が近くにいるのに眠ってしまうことなんてなかった。




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