ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜



「あの……言い訳させてもらえる?」
 恭子は、眉根を寄せている。
「どうぞ」
 私は頷く。
「あの、須藤君て、ケンさんにちょっと似てるの。雰囲気とか、醸し出すオーラみたいなのが似ててね。それで、須藤君もケンさんと同じ別格なんじゃないのって、この前恭子に言われて、ケンさんは家族だけど須藤君はそうじゃないし。他人で別格ってなんなんだろうって」
「ああ、その辺は聞いたねえ」
「家族かそうじゃないかって、そればっかり考えてた……」
「好きとか、そういうのは?」
「全然……」
 自分でも呆然としてしまう。
 どうして忘れていたんだろう。
「……考えもしなかったよ……」
「じゃあ考えてみなさいよ。千波と須藤君に、恋愛っていう要素が入るとどうなるか」
「入るの?私、須藤君より大分年上なのに」
「入るの。年なんか関係ないのよ」
「……そうかなあ」
「事実を並べてみるのよ。須藤君が千波にしてくれたことだけを考えてみて」

 恭子の言った通り、事実だけを並べてみる。
 そうしたら。

 パズルのピースが、見つかった。
 真ん中の、図柄の形が見えた。

「え……そういうことなの……?」

 お土産、誕生日プレゼント、クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー、チョコレート、のど飴、カフェオレ。
 歩く時は車道側。
 傘を傾けてくれた。
 『心配だから』帰りに送ってくれる。

「……うそ……」

 もし、逆に恭子から、同じことをしてる人がいるって聞いたら、なんて言う?
 5年前、私は、筒井さんが熱心に経理に通ってるって聞いて、恭子になんて言った?

『筒井さんは、恭子のことが好きなんだよ』

「考えた?」
 恭子が、私の顔を見ている。
 きっと、私の考えていることは想像がついているはず。
「わかった?須藤君の気持ちと、自分の気持ち」
「え、ごめん。まだ自分のことまで考えられない」
「なーんだ、遅いよ千波」
「だって、そんな……」
「須藤君の気持ちなんて、みんな知ってるよ。知らないのは千波だけだよ」
「みんなって?」
「会社の人。みんな」
「は?」
「まあ、あんた達の周りの人は、みんな知ってると思っていいだろうね。須藤君わかりやすいから」
「わかりやすい?須藤君が?」
 須藤君は感情が表に出にくい。だから無表情って言われてると思ってたんだけど、違うの?
「千波にだけ、笑う。千波とだけ、おしゃべりする。千波といる時だけ、雰囲気がやわらかくなってまるで別人」
 ビシッと、顔の真ん中を指差された。
「あんなに態度が違うのに、気付かないんだよね、本人は」
「……すいません……」
「謝るのは私にじゃないよ」
「うん……」
「で、自分の気持ちは?」

 自分の気持ち、は……。

 須藤君は、癒しの存在。
 顔を見ると、安心する。
 話をすると、楽しい。
 隣にいるだけで、落ち着く。

 最初に会った時から、普通に話せた。
 一緒に歩いてても、緊張しなかった。
 2人だけで、飲みに行けた。
 側にいても、気持ち良く眠れた。

 こんな人は初めてで、どう思っているのかなんて、自分でもわからない。
 好意はある。むしろ普通以上にある。
 じゃあその好意は、恋愛感情かと聞かれると、途端にわからなくなる。
 そういう風に、意識したことがない。

「わかんない……」
 恭子が、ガックリとうなだれた。
「だって、そんな風に考えたことないんだもん。さっきまで『恋愛』っていうものを忘れてたくらいだし……」
「ああ、そうか。ごめん、わかる。私も同じ感じだった」
 きっと5年前のことを言っているんだろう。
 あの時、恭子は筒井さんが好きかどうかわからないと言っていた。
 でも、その後いろいろあって、筒井さんは頑張って恭子にアプローチを続けて、恭子も筒井さんに段々惹かれていって、2人は結婚したんだ。
「今、焦って答えを出さなくていいよ。顔を見ればわかることもあるから」
「明日?」
「別に、明日結論出せって言ってるんじゃないよ。まあ、明日は仕事だし、顔は合わせるんだろうけど」
「なんか……どんな顔したらいいのかわかんないよ……」
 私がそう言って頭を抱えると、恭子は笑った。
「普通にしてればいいよ。普通にできないんなら仕事してれば?」
「……そうしようかな」
 そうか、仕事。仕事に没頭してれば、余計なおしゃべりはしなくて済む。
 今までだって、忙しくて挨拶くらいしかしない日もあったんだし、不自然じゃないよね。
 ちょっと気は楽になったかも。

 そんな私の思惑は、朝一番に崩れることになる。



「あの、帰り、夕飯、食べて、いきませんか」

 次の日の朝、花を活けながら、頑張って普通にしていた私に、須藤君がこんな爆弾を落とした。

 意味を理解するために、頭の中でもう一度繰り返した。

 『あの、帰り、夕飯、食べて、いきませんか』

 そう言ったよね。
 私、食事に誘われてるんだよね。
 今日、仕事が終わったら、一緒に夕飯を食べましょう、と言っているんだよね。
 須藤君と、私と、2人で。

 そんなことを考えていたら、須藤君の顔が段々赤くなってきた。

 ああ。
 どうやら、昨日見つけたパズルのピースは合っていたらしい。

 答え合わせがうまくいったみたいに嬉しくなって、自然と顔が笑ってしまう。

「なに食べたい?」

 返事をすっとばしてしまったことにも気付かずに、もうすっかり行く気になっている。

 だって、目の前の須藤君は可愛くて、カッコ良くて。
 断る気になんて、なれない。

 昨日思ったのとは違う意味で、仕事に没頭した。
 須藤君を、待たせることがないように。




< 68 / 130 >

この作品をシェア

pagetop