新人ちゃんとリーダーさん

「ぬぅ。今日も立派ないがぐり状態(ぼうぎょたいせい)ですね、ハリーさん」

 大学への進学を期に親元を離れ一人暮らしをしようと決意した私に「一緒に暮らしなさい」と母方の祖父が連れてきてくれたのが絶賛いがぐり中の彼、ヨツユビハリネズミのハリーさんだ。とても可愛い。
 チョコレートというカラーの彼と寝食を共にし始めて早一年半。大学に入って最初の一年は、勉強とハリーさんのお世話で手一杯だった上に、うっかりハリーさんの事を喋ってしまったものだから連日友人達が家に押し掛けハリーさんの針がごっそり抜けるというピンチにも陥って、それが軽くトラウマになったりととにかく忙しかった。
 無事進級出来てからは心身共に余裕も生まれ、ちょうどその頃から本当に極稀にハリーさんが鼻先をすりっと擦り付けたりしてくれる事もあるものだから今ではすっかり彼の虜だ。とても可愛い。勿論、針ごっそり事件以降、彼の事は【一緒に住んでいる彼】で統一している。
 そんなこんなで、余裕の出来た私は思った。彼に今よりももう少しだけ大きいお家(ゲージ)を買ってあげたい!と。そんな私に両親も祖父母もお金は出してあげると言ってくれたけれど、首を縦には振らず「自分の稼いだお金で彼のお家を買いたい」と提案をした。
 無論その提案は「年頃の娘が何を言っているんだ!」と母も呆れるほどの過保護な父の猛反対により一時難航。しかし【家から二駅以内】【男避けの指輪を付ける】【その他諸々】という条件を必ず守るからと説得した私は凄い。ハリーさんは可愛い。
 そうして始めたバイト先の古民家カフェで私は出会った。鬼頭さん(すきなひと)に。といっても、鬼頭さんを好きだと気付いたのはほんの三日前だ。出会いは半年前。好き歴は三日。何とも浅い。
 とはいえ、何も知らない、あんまり喋った事がない、みたいな間柄ではない。バイト先には私以外にオーナーとバイトリーダーの鬼頭さんを含めた四人のバイトスタッフさん達がいて、彼らは皆男性だけど週一でご飯に行くぐらいには仲がいい。バイトを始めて一ヶ月経った頃に歓迎会を開いてくれて、そこから私の何を見てどう思ったのかは知らないけれど、「おいお前ちゃんと飯食ってんだろうな」という鬼頭さんの一言が週一ご飯会の始まりだ。「んじゃ、相談のってくれよ」と今日の相談会を先週のご飯会で持ちかけてきたのだって、鬼頭さんだ。その時は、単純に頷いた。だって、好きだ、っていう自覚がなかったんだもの。

「……やだなぁ、」

 四月生まれの私は既に二十歳を迎えていて、お酒を嗜んでいた事もあって「必ずやお役に立って見せます」とへらへら笑いながら敬礼をした事を、今は激しく後悔している。
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