新人ちゃんとリーダーさん

①トラウマちょこれぇと


 自分が女にモテるのは、わりと昔、小学校の高学年になるあたりには自覚していた。
 これまでに言い寄ってきた女は数知れず。だけど手を出したことは一度もねぇ。興味がなかったわけじゃねぇが、食指は全く動かなかったからだ。だからこそ、毎年この日になると浮かれた女共に押し付けられる甘ったるい茶色の物体が俺は大嫌いだった。

「待って、鬼頭くん。はいこれ。チョコレート」
「いらねぇ」
「え、でも、」

 去年までは、生き地獄と名付けても違和感なんてなかった今日という日も、今年は違う。
 午前中で終わる大学の講義。四ヶ月前から付き合い始めた恋人が「バイト前にデートしたいです。大学までお迎え行ってもいいですか?」とうるうる上目遣いで言ってきたものだから、逆に今年は俺が浮かれてる。浮かれんなという方が無理だろ。普通に無理だ。

「っねぇ待って。お願い、受け取ってよ、せっかく作ったのに」

 本日最後の講義が終わってすぐさま教室を出たはいいものの、テカテカした真っ赤なラッピングが施された四角い箱を持って、名前も知らねぇ女がそれを押し付けるために追いかけてくる。小走りで隣をキープしつつ、ずっと差し出してくるそれがひどく煩わしい。
 手作りとか、余計にいらねぇ。

「ねぇってば!」

 もう少しで正門に着く、というところで、行く手を遮るように俺の前へ出てきたその女は、むすりと拗ねたような顔をしていた。
 可愛いと思ってんやってんのかそれ。鏡買え。
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