新人ちゃんとリーダーさん

 いえ、全然待ってませんよ。
 そう言って、彼女は確かに笑っていたのに、その時覚えた漠然とした違和感がどうしても拭えなかった。
 二時間ほどデートをして、そこからバイトへ向かった。シフトが丸被りだったからこそ、結愛は今日のお迎えやデートを提案してきたのだろうけど、心ここに在らずといった様子だった。バイトを終え、着替えてから思い出したように結愛が紙袋を出して「今日バレンタインなので、良かったら皆さんで食べてください」と義理チョコならぬ義理チョコマフィンをオーナーに渡しているときに目が合ったのに秒でそらされたのも、納得がいかなかった。
 なぁ、俺には、ねぇの?

「送ってくれて、ありがとうございます」
「ん」
「帰り、運転気を付けてくださいね」
「ん」
「……」
「……」
「……え、と、」

 愛車を走らせ、結愛を家へと送り届ける。
 もしかしたら、なんて期待を胸に玄関前までついていったのだけれど、どうやら期待した【もしかしたら】は起こらねぇらしい。
 動こうとしねぇ俺に戸惑っているのだろう。困惑の文字を顔に張り付けて、おどおどしながら俺を見上げてくる。

「なぁ」
「っは、はい」
「こういうの、催促するもんじゃねぇってのは分かってんだけど」
「へ」
「俺のは、ねぇの?」
「え」
「チョコレート」

 浮かれて、楽しみにしてたのは、俺だけか?
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