新人ちゃんとリーダーさん
違う、だと?
なら何なんですか?と問いかける前に、エレベーターが止まり、閉ざされていた隔てが開く。
「降りるぞ」
くいっと手を引かれ、エレベーターから降ろされ、そのまま歩き進める鬼頭さんに半ば引きずられる形で歩き始めて、はっとする。
手、繋いだままだった!
待って!ちょっと待って!エレベーターの中でも繋いでた!恥ずかしい!
どうにか押さえ込めていた羞恥心が馬鹿みたいに膨れ上がって、顔面に熱が集まる。しゅうしゅうと湯気が出ていてもおかしくないくらいに熱いのだから、おそらく私の顔面は真っ赤なのだろう。ヤバい。これはヤバいぞと、すぅうう、はぁああ、と深呼吸をして、己を落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫。私はちゃんと鬼頭さんの恋を応援出来る。だからこうして相談会にも出席してる。私の恋心は鬼頭さんにとって迷惑でしかない事も理解している。本人に悟られたりなんてしない。大丈夫、大丈夫。
「……え、あ、の、」
空いてる手でトントンと胸元を軽く叩き情緒を安定させていれば、歩みが止まり、繋がれていた手が離される。それとほぼ同時にピピッと短く鳴った電子音。不思議に思いながら意識と視線を向けたそこには小綺麗な扉と【鬼頭】の二文字があった。
「外じゃ誰が聞いてっか分んねぇから、俺ん家で相談のってもらおうと思って」
俺、ん、家。俺ん家。
頭の中で二度ほど復唱したのち、いや駄目だろと脳内の私が言う。だって、そんな、鬼頭さんの未来の彼女さんよりも先に家にお邪魔するなんて、駄目、絶対。
ふるりと首を横にふるついでに視線を鬼頭さんへと向け、「あのでも突然お邪魔したらご家族のご迷惑になりませんか」と割りと真剣に訴えた。の、だけれども「いや?一人暮らしだしな」との返答にあえなく撃沈。したのもつかの間。いや待て。一人暮らしならなおさら駄目だろとさらなる反論を吐き出そうとした瞬間、鬼頭さんの眉尻が下がった。
「……嫌、か……?」
ねぇ待って。
「あ、う……い、やじゃない、です」
ずるいよ、そんなの。