嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「変なヤツだねぇ、一ノ宮って」

風夏ちゃんは部活で、私は今日は活動日じゃない。だから菫ちゃんと二人で帰ってる途中だ。

「何でも頼めなんて言っときながら、自分の方が頼みごとしてんじゃん」

「アハハ、確かに面白い人だよね一ノ宮君って」

「あれでかなりモテてるらしいよーアイツ」

「爽やかなイケメンだよね?一ノ宮君って。それにサッカー部なんでしょ?そりゃモテるよ」

元気の塊!って感じの一ノ宮君。日焼けした肌に、引き締まった感じの体格。目がパッチリしてていつも男子の中心で笑ってるってイメージだ。

「で、ちゃんと直してあげるんだからひまもお人好しだよねぇ」

一ノ宮君のお願いは、サッカー部のユニフォームの破れた部分を繕ってほしいってものだった。私が家庭科部だって知ってたみたいで、放課後急遽使うことになっちゃったんだって。

「だって困ってたから」

「ホント調子いい、一ノ宮」

「菫ちゃん、一ノ宮君のことあんまり好きじゃないの?」

「そりゃあ、ひまにケガさせたから」

「あれは、どっちかというと私の方が悪いから!」

「いや、廊下走ってる一ノ宮が悪い」

「フフッ、ありがと菫ちゃん」

私の為に怒ってくれるのが嬉しくて、思わず笑顔が溢れた。








「ひまりー、これ旭君とこ持ってってー」

お母さんが、私に紙袋を手渡す。

「これ何?」

「桃よ。おばあちゃんがたくさん送ってくれたから、お裾分けしてきて?」

「はーい」

やった!予想外に旭君に会える!

玄関横の姿見で軽く身だしなみを整えてから、私は紙袋を手に旭君の家へと向かった。

「はい、お母さんから。桃だって」

「おー」

「後これも。最新巻買ったからどうぞ。私もう読んだから」

マンガの貸し借りを口実に、ちょくちょく会いにきてしまってる私です。

「…なぁ」

私から紙袋と漫画を受け取った旭君は、急に真面目な顔で私を見つめる。真剣な表情に、思わずドキンと胸が高鳴った。
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