嘘吐きな王子様は苦くて甘い
うわ、結構遅くなっちゃったなぁ。

今日は家庭科部の活動日。旭君に話があるって言ったら待っててくれるって言うから、お言葉に甘えた。

待っててくれるのは、物凄く嬉しい。だけど話を切り出すのも怖くて。嬉しいと怖いが混ざった複雑な気持ちで、私は廊下を小走りした。

「てかマジだったんだな、お前の話」

旭君の教室の前に差し掛かった時、中から声が聞こえてきた。ドアが開けっぱなしだから、この位置から誰だか確認はできないけど声はよく聞こえる。

「俺狙ってたのになー、ひまりちゃん」

「気安く呼ぶんじゃねぇ」

「何彼氏気取ってんだよ、好きでもねぇくせに」

男子が、何人か居る。他の人達は誰だか分からないけど、一人だけ絶対に聴き間違えない声が聞こえる。

…話してる人達の中に、旭君が居る。

ひまりって、私のことだよね?

私の話、してるの?

足がすくんで、ここから動けない。





「でもさぁ、お前どうすんの?」

「いいじゃん、このまま付き合っときゃ。あの子可愛いし」

「バカか、ずっとこのままなわけねぇだろ」

「でもひまりちゃん、旭が好きなんだろ?俺マジで狙ってたのにさぁ」

「不毛。他当たれば」

「そうすっかぁ、はぁ」

「旭と別れたらワンチャンあるくね?」

「ねぇよ、アイツ俺以外見てねぇし」

「うわー、そんな純情な女の子弄ぶとか旭君マジ鬼畜ー」

「お前らが言い出したんだろ」

「えー、そうだっけ?」

「俺ら一時間前の記憶すらねぇからなぁ」

「つかお前らもう帰れや」

ギャハハ、と聞こえる楽しそうな声。もうこれ以上は聞きたくなくて、私は走ってその場から立ち去った。






「…っ、はぁ、はぁ…っ」

学校から離れたところで私は走るのをやめた。一気に走ったから、呼吸がし辛い。

「…」

あれはやっぱり、そういうことだよね?

全部をちゃんと聞いたわけじゃないけど、幾ら鈍い私でも大体の察しはつく。

旭君は、私が好きで付き合おうって言ってくれたんじゃない。友達に言われて、仕方なくだったんだ。

何で友達の言う通りにしたのかまでは分からないけど、あの話を聞いてれば旭君が私を好きじゃないってことは明確だった。

旭君は私を、好きでもなんでもない。

話し合う前に、もう答えを聞いてしまった。
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