嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「ひまりー?この回覧板お隣さんに「行く!」

食い気味に言って、お母さんから回覧板をひったくるように受け取る。そんな私を見ながら、お母さんはいつものことねーみたいな反応で笑う。私の旭君大好きは、口に出さなくてもお母さんにはとっくの昔に気付かれてるんだ。

「こんばんは」

「いつもありがとう、ひまりちゃん」

「いえ」

「あ、ちょっと待っててね。お母さんに渡してもらうものがあるの」

「はい」

叔母さんはパタパタと中に入っていく。回覧板を渡した後の私の後ろ手には、クッキーの入った紙袋。一つは一ノ宮君にあげちゃったから、もう一つ。お母さんには結局、まだあげてない。

いや、念の為だからね?絶対渡せるなんて思ってないけど、もし会えたら渡そうかなって。その位の気持ちしかないから!

誰に言い訳してるのか、心の中でそんな問答を繰り返した。さり気なく首を伸ばして二回の様子を伺うけど、いるのかいないのかよく分からない。

「これ、この間一緒に注文したものなんだけど半分に分けたからって。お母さんに渡しておいてくれる?」

「はい、分かりました」

「ごめんね、ありがとう」

「…」

「?」

「…あ!じ、じゃあ失礼します!」

「ありがとうね」

ペコッと頭を下げて、玄関を閉める。

なぜだか、来る前よりもクッキーの入った紙袋が重く感じる。しょんぼり下を向いて帰ろうとして、

「おい」

急に前から声をかけられた。








「わっ!」

ビックリして前を向けば、私の大声をしかめっ面で受け止める旭君がいて。

「な、何で!?」

「いや、ここ俺んち」

「あ、そっか」

納得しつつ、チラッと手元を見るとコンビニの袋。そっか、旭君家に居なかったのか。

「か、回覧板!回覧板持ってきたの」

会えなくてガッカリしてたけど、急に会えたら会えたで心臓への血液供給が間に合わない位に急に鼓動が早くなるから困る。

「旭君は、コンビニ?」

「おー」

「そっか」

「…」

「あ、あの…」

「ん」

旭君がガサッと音を立ててコンビニ袋から何かを取り出す。

「え?」

「やる」

旭君の手には、私が昔好きだったグミ。私はそれをそっと受け取った。今は滅多に食べないそれをジッと見つめる。

旭君は、今の私のこと全然分かってない。私が今好きなのは、このグミじゃなくてチョコレートのお菓子なのに。

…それなのに、何でこんなにも嬉しいんだろう。最近、旭君を見るといつも泣きたくなってしまう。






「…ありがと、旭君」

「おー」

「私も、これ」

クッキーの入った、紙袋を手渡した。

「部活で作ったクッキー。よかったら食べて」

「…サンキュ」

「…回覧板渡しにきただけなんだけど、たまたま手に持ってたから」

「そーかよ」

たまたまっていうのが絶対嘘だって分かってそうな、ちょっと意地悪な笑顔。それにさえまた、キュンとしてしまう私はもうどうしようもない。
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