嘘吐きな王子様は苦くて甘い
ーー

それから数日後の放課後。家庭科部の活動がない日に、旭君が教室に迎えにきて。断る理由もないから、色んな気持ちを抱えつつ旭君と一緒に教室を出た。

「ひまりちゃん、ばいばい」

「ばいばい」

菫ちゃんと風夏ちゃん以外の女子達からは、ちょとミーハーな笑顔で挨拶されて私もそれに苦笑いで答える。

「お、大倉さんっ」

階段に差し掛かった所で後ろから声をかけられる。

「一ノ宮君」

「ごめんね、引き留めて」

走って追いかけてきたのか、一ノ宮君の息はちょっと荒い。

「ううん、どうしたの?」

「クッキーのお礼、言い忘れてたから!」

「え?」

「この間、マジでありがとう!めっちゃ美味しかった!」

「ホント?なら良かった。私こそ、お菓子ありがとう」

「また見かけたら買っとくね!」

「そんな!お気遣いなく」

「ごめんそれだけ!じゃあまた明日!」

「うん、また明日」

一ノ宮君はクルッと向きを変えて教室の方に走っていった。

ホントに、わざわざお礼言うためだけに追いかけてきてくれたんだ。

あれ?そういえば、一ノ宮君お菓子交換した次の日すぐに「美味しかった、ありがとう」ってちゃんと言ってくれたよね?

なのに何でまた?







「行くぞ」

「あ、うんっ」

旭君は私の方を見ないまま、グッと私の手を握った。

「ちょ、あさ、石原君っ」

思いっきり動揺する私を無視して、旭君はそのまま階段を降りる。

…手!手、繋いでる!

さっきまでそんなことなかったのに、握られた瞬間に手から汗が湧き出てくるような変な感覚。顔は熱いし、心臓は痛いし、兎に角恥ずかしい。

「石原君ってば!」

「うっせ」

「ねぇ!」

昇降口で靴を履くまでの、短い短い間。でも私にはそれが物凄く長く感じる。

「…」

ホントは、嬉しいのに。素直に嬉しいって言えなくて。真っ赤な顔を隠すように下を向いてると、

「ヒュー、やるなぁ旭」

「校内でなにやってんだよ」

って男子の囃し立てる声が聞こえて思わずそっちに目を向けた。

あの人達多分、前に旭君と教室で私のこと話してた…

それに気付いた瞬間、体中の熱が一気に冷めていくのを感じた。
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