嘘吐きな王子様は苦くて甘い
ーー

「大倉さん!」

ある日の放課後、部活が終わって帰ろうと門に向かってると、グラウンドの方から大きな声で名前を呼ばれて。

振り向くと、一ノ宮君が手を振りながらこっちに走ってくるのが見えた。

「一ノ宮君」

「大倉さん、今帰り?」

今日もたくさん練習したんだろう、一ノ宮君の頬っぺたは真っ赤に色付いてる。

「うん、そうだよ」

「俺も今部活終わったんだ。よかったら一緒に帰らない?」

「え?」

「あ、着替えるの待つのやだよねごめん!」

「ううん、それは大丈夫だけど…」

一ノ宮君がクラスメイトとして私を嫌ってないっていうのは分かるけど、何でわざわざ走ってきたのかが分からない。

首を傾げる私に、一ノ宮君は珍しく固い表情を見せた。

「話が、あってさ」

「話…」

なんだそっか、だから私を呼び止めたのか。

謎が解けた私は、一ノ宮君に笑顔で頷いた。

「分かった、じゃあ門のところで待ってるね」

私の言葉に、緊張が解けたように頬を緩める一ノ宮君。

「ありがとう!ダッシュで着替えてくるから!」

「アハハ、ゆっくりで大丈夫だよ」

「マジで!マジですぐ着替えるから!」

言い終わらない内に、一ノ宮君はもう走り出していて。

「話…」

いつだか菫ちゃんと風夏ちゃんに言われたことが脳裏を過って、それを振り払うように私は小さく頭を振る。

まさか一ノ宮君が私を好きなんてそんなこと、あるわけないよ。







「ごめんね、お待たせ!」

「ホントに早かったね」

宣言通り、一ノ宮君は三分もしない内に門へと走ってきた。息が切れてるみたいだし、相当急いだんだろうな…

「大倉さん、電車?」

「ううん、徒歩だよ。家から学校まで十五分もかからないんだ」

「へえ、近いんだね!」

「一ノ宮君は?」

「俺は電車。二十分位かな?そっからチャリなんだ」

「そうなんだ、じゃあ方向はおんなじなんだね」

「だね!」

こうやって歩きながら話してても、一ノ宮君とは全然距離が空かない。多分、私の歩幅に合わせてくれてるんだと思う。

旭君の隣を歩いてる時は、気を抜いたらいつも置いてかれてたのになぁ。

ふと私の隣を不機嫌そうに歩く旭君の姿が浮かんで、胸がキュッと苦しくなった。

「あのさ」

「あ、うん」

慌てて、脳内に浮かんだ旭君を振り払う。

「凄いデリカシーないこと聞いていい?」

「うん?なんだろいいよ」

「大倉さんって、三組の石原君と付き合ってたんだよね?」

「う、うん」

急に旭君の名前が出て思わず声がつまる。

「俺、この前友達から偶然聞いて…」

「え?」

「石原君の友達が、誰が誰落とすかみたいなことやってるって…」

「…」

それは多分、旭君と教室で話してたあの男子達のことなんだろう。

「そいつらが、次は大倉さんって言ってたらしいんだよ」

「わ、私!?」

「いや、その友達も噂程度らしいからハッキリはしないんだけど…」

「そ、そっか」

あの時、確かに私の名前は出てて。旭君が私と付き合ったのは不本意だ、みたいなことも言ってた。

じゃあ旭君は、グループの中で誰が一番最初に私と付き合えるかゲームみたいな感覚で告白したってことなの?

いや、でも旭君はそんなことする人じゃないもん。

確かに私と付き合ったのは誰かに言われてかもしれないけど、旭君はそんな最低な遊びに参加したりしない。

絶対絶対、そんな人じゃない…っ
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