嘘吐きな王子様は苦くて甘い
私にはない勇気が、他の女の子達にはある。好きだって気持ちを真っ直ぐに伝えられるその行動が、私にはとても眩しく思える。

羨ましくて、尊敬もして、同時に凄く怖い。

旭君がいつか特別な女の子を作ってしまう、その日が来ることが。

「私、ダメダメなんだよ…ウジウジしてて怖がってばっかりで。だから、勇気を出して気持ちを伝えられる人は凄いなって」

「あーごめんねひまり。私そんなつもりで言ったんじゃないんだよ?」

「分かってるよ風夏ちゃん、謝らないで?」

「要するに、そもそも最初から距離が近いんだよね。ひまと石原は」

「え、それってスタートが皆よりゴールに近くていいことなんじゃないの?」

「そうでもないんじゃない?逆に壊れるのが怖くなる気持ち、私は分かるな」

「そっかぁ。私、好きって思ったらすぐ言っちゃうタイプだからなぁ」

「凄い!風夏ちゃんかっこいい!」

「へへーん、でしょ?でもさ、大体オッケーはしてくれるんだけど長く続かないんだよね。結構ノリで告白しちゃってるからさ」

「難しいんだね、恋愛って」

「私はまだいいかな。高校入って三ヶ月しか経ってないし」

「そうだよねー、いい人探しはこれからだよねー!ひまりもさ、実は石原君以外に運命の人が居たりして!」

「うーん、どうかなぁ。旭君以外の男の子をそういう風に見たことがないから」

「ひまりは知らないだろうけどさー、結構狙われてるからね?気を付けなさいよ?」

「え?え?」

「あーもうほらほら、教室着いたよ」

「菫もだからね?狙われてるの」

「はいはい、分かったから」

私達が教室に入ってすぐ、予鈴のチャイムが鳴る。ゆっくり話しながら歩いてたから、着くまでに結構時間がかかってしまったみたいだ。










「起立、礼。着席」

「はい、今日は二時間目にーー」

先生の話を耳に入れながら、私は窓の外に目を移した。窓際の後ろから二番目、とっても好きな位置。

ー石原君、この前告白されたらしいよ

ー焦ったりしないの?取られたらどうしよう、とかさ

頭の中でさっきの風夏ちゃんの言葉がリフレインする。

背が高くて、手足が長くて、顔だって少しだけ目付きが悪いけど鼻筋が綺麗で整ってて。きっと旭君を好きじゃなかったとしても、かっこいいなって思ってただろう。

小学校高学年位から目に見えて女の子に人気が出始めた旭君は、多分今まで誰の告白もオーケーしたことがない。

女の子に興味がなさそうって感じで、中学の時旭君の家までバレンタインのチョコレートを渡しに来た女の子が居たけど、旭君は受け取ってなかった。

私はその時丁度ピアノ教室に行こうとしてて、偶然見てしまって。旭君がどうするのか気になって、最後まで覗き見しちゃったんだ。

ーこういうの、好きじゃないから

冷たい声色の旭君の声を聞いて、自分が言われたわけじゃないのに泣きそうになった。

私のチョコレートは、お隣さんだから貰ってくれるだけ。受け取らねーと母さんがうるせーからって言ってたし。

その後もなにかと女の子からちょっかいをかけられてた旭君は、いつも眉間に皺を寄せてて。

きっと私が幼馴染みじゃなかったら、旭君の隣は歩けてない。

そう思ったら、好きって言うのが怖くなって。

一生旭君のただのお隣さんでいたいわけじゃないけど、今の位置から一歩踏み出すのがどうしても怖かった。
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