嘘吐きな王子様は苦くて甘い
旭君は何事もなかったかのように、ペンを握ってノートに目を写す。

「いやいや旭君!」

突っ込まずにはいられないよ!

「…何」

「何じゃなくて!さっきの何!」

「なんかあったっけ」

「手バッて!バッてやったじゃん!」

「やってねぇ」

「いややったよ!」

「気のせいだろ」

「そうなの…?」

消しゴム借りたのが嫌だったの!?自分のあるんだからそっち使えって思われたのかな。たまたま近くにあったから借りようとしただけだし、そもそもこんな感じのやり取り初めてじゃないよね?

「…」

よし、試してみよう。

旭君は悟られたくないのか、下向いてノートを睨んでる。気付かれないように、私はローテーブルの下からそっと手を伸ばして彼の太腿に触れた。

ガタガタンッ!

旭君がめちゃくちゃ大げさに反応して、彼は盛大にローテーブルに膝の辺りをぶつける。

「あ、旭君!?」

「…っ」

「だ、大丈夫!?」

まさかここまで反応するなんて…

「な、何が?」

「な、何が…って…」

「ちゃんと集中しろよ」

「う、うん」

旭君はまたノートを睨むけど、さっきより何倍も眼光は鋭い。足もちょっとプルプルしてて、絶対痛いの我慢してる風だ。








「あの…旭君」

私はパタンと教科書とノートを閉じる。

「やり始めてからもう結構時間経ったし、ちょっと休憩しない?」

「お、おぉ」

「はい、それ閉じて」

「…おー」

「で、こっち向いて?」

「は?」

「は?じゃない。旭君こっち向いて」

旭君があたふたしてると、私が冷静になる不思議。

「…何か持ってくる」

「旭君!」

旭君が逃げるみたいに立ち上がろうとするから、私は咄嗟に大声で名前を呼んだ。

「座ってください」

「いや」

「旭君!」

「…はい」

観念したのか、旭君はバツが悪そうに私の正面に胡座をかいて座った。

いつもポーカーフェイスの旭君がシュンとしてるの、ちょっと面白い。

旭君には悪いけど、いたずら心がムクムクと芽生えてきた。
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