黒翼の淡恋
2時間後、彼女は無理やりに起こされる事となった。

警備兵の野太い声が聞こえた。


「女!起きろ!」


ガチャ、キイ・・


兵士の手には囚人用の服と粗末な食事があった。


古びたテーブルにパンと野菜の入ったスープが置かれた。


「食べろ。シリウス様から特別に用意された物だ」


「シリウス・・?」


「この国の皇子殿下だ。先刻いらっしゃっただろうが!・・感謝しろ」


と兵士から受け取った服を広げてみると、囚人にはもったいない素材で出来た服だった。

生地が柔らかくて触っただけでも上質なものだとわかった。

本来囚人の服はごわごわで紙で出来ているんじゃないかと思うくらい粗悪品だった。


「あ・・ありがとう・・ございます」


「着替えたらその上着はお返しする様に。お前には一生縁のない価値のあるものだ」


「・・・はい」


彼女は素直に頷いた。

何度過去を思い出そうとしても記憶が蘇らない。

何をしたらいいのかもわからない。

今は無垢に従う事にした。


「ったく、魔女なんかにもったいねえ。この食事も服も・・」


とボソリと納得のいかない様子で兵士はぼやいた。


「あの・・教えてくれませんか・・何故・・私は魔女だと思われているんですか」


「はあ!?気安く話しかけるんじゃねえ!」


バシッ!!

頬を叩かれ、痛みと驚きで彼女はへたりこんだ。


「はっ!?やべえっ!!やっちまった!!呪われるっ」


バン!ガチャっ!!


兵士はおびえた様子ですぐに扉にカギをかけた。

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