その手をぎゅっと掴めたら。

少し乱暴に髪の毛を引っ張られる。

「病人なんだから、大人しくしてなよ」


病院の廊下で派手に転けてしまった私の元へ看護婦さんが慌てて駆け寄ってきて、車椅子で病室まで運んでくれた。

人だかりができる中で葉山くんの姿がないことに、彼が追いかけてくれなかったことに、ただただショックを受けた。


そして面会開始時間と共に亜夜が現れて、濡れた私を見て小さな悲鳴を上げ、タオルで髪を拭いてくれている最中である。


頬に伝った涙は、雨粒として誤魔化せても、充血した目の言い訳が見つからない。


「で、何があったの?」


スエットに着替えてある程度、髪が乾くと亜夜の直球が飛んでくる。


「うん、あった」

「……」

「……」

「あ、そぅ」


あっさりと亜夜は引いた。

隠したいわけではないけれど、口に出してしまえばどうようもない哀しみに襲われそうで、言葉にならなかった。

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