昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
数日後。
あれから葉月は日を置いて、翔を訪ねに二回ほど高校に行った。
本当はもっと会いに行って話したかったのだけど、場所が高校と言うこともあって慎重に行動した。
高校に訪れた際は翔との間に起こった出来事を断片的にではあったが、翔に話すことができた。
でも、記憶を思い出してくれることはなかった。
それどころか、三回目でついに、『迷惑ですから、もう高校には来ないでください』とはっきりと翔に言われてしまった。
一応覚悟はしていたけど、面と向かって言われるとさすがに心も折れてくる。
でも今日は仕事が休みで、翔に会いに行くこともない。
特に予定がなかった葉月は国営昭和記念公園にやってきた。
ここは以前、翔とピクニックをした場所だ。
この場所を選んだのは、暇をつぶすためでもあるけど、自然に囲まれながらリフレッシュをするためでもある。
早速、“みんなの原っぱ”にある大きなケヤキの木の下まで来ると、鞄の中からレジャーシートを出して芝生の上に置き、葉月はその上に座った。
(どうしたら記憶を思い出してくれるんだろう……)
葉月が考えていると、どこからかサッカーボールがころころと転がってきた。
「すみませーん! ボール取ってくださーい!」と、小学生くらいの男の子が遠くから葉月にお願いをしてきた。
「はーい!」
葉月は立ち上がって男の子に向かってボールを蹴飛ばした。
ボールは男の子の元へ無事に渡り、「ありがとうございまーす!」と葉月にお礼を言って、男の子は友達の元へと去って行った。
微笑ましいなと思った葉月は、座って翔の記憶を思い出させる方法について再び考えた。
考えるだけではなくて、時折、深呼吸をしたり、芝生に寝転んで何も考えない時間も作った。
それから長い間考えたが、何もいいアイデアは思いつかなかった。本当はここにリフレッシュしに来たつもりだったのに、結局翔のことを考えてしまった。
後悔しながらも、段々と辺りが暗くなってきて、閉園の時間も近づいていたため、今日は帰ることにした。
立ち上がってふと横を見ると、葉月は目を丸くした。
「翔……」
そう、葉月の目の先にはケヤキの木を見上げながら立っている翔がいた。
どうしてこんなところにいるんだろう。
しばらく翔の様子を伺っていると、葉月に気づいて翔がこちらを向いた。
「あっ、あなたは……」
「偶然だね。こんなところで会うなんて。何でここにいるの?」
「何か自分でもよくわからないんですけど、前にここに来たって言う記憶があって。でも、何があったか思い出せないんですよ。だから今日来てみたんです。ここに来たら何か思い出せるかなって思って」
「えっ、それって……」
翔の記憶が少しだけ戻っている。これまで翔に思い出を話した成果が出たんだろうか。
「あなたは、どうしてここにいるんですか?」
「私はリフレッシュするために来たんだよ。でも、もうすぐ閉園の時間だし、帰ろうと思って」
「そうですか。俺はもう少しここにいます」
「わかった。気をつけて帰ってね」葉月はそう言うと、帰り道を歩いた。
本当はあそこで、「ここは前に私とピクニックをした場所なんだよ」と教えるべきだったのかもしれない。
でも、ただでさえ翔に迷惑がられているから迂闊なことは言えなかった。
きっとまた話せる日は来るだろうから、その時ちゃんと伝えよう。
帰り道の途中、歩道橋を渡っている時に、最近あまり寝ていないせいか頭痛がした。
これくらい何ともないと思い、油断して階段を降りようとすると、突然、目眩がしてふらついた。
そして葉月はそのまま足を滑らせた。
「きゃっ……!」
もう駄目だ、落ちる……っ!
と思った瞬間、誰かが葉月の体を抱き締めた。
葉月とその人は二人で階段の下に向かって勢いよく転がっていった。
コンクリートの硬くて冷たい上を、横向きになった体が何回も回転した。
後ろで抱き締めている人が、必死で葉月の頭を守りながら耐えているのが葉月にはわかった。
やがて地面まで転がり落ちて、回転しなくなった。
葉月は恐る恐る目を開けた。
「私、生きてる……!」
ふと後ろを見ると、なぜか目の前に翔の顔があった。
「翔⁉︎」
翔は気絶しているのか目を閉じたままだった。
葉月は起き上がって翔を軽く揺さぶった。
「翔……ねえ、起きて」
何でここに翔がいるのか、何で自分を助けたのか、頭の中は混乱していた。
翔はまだ目を瞑ったままだ。
「翔、ねえ、翔……っ」
何度翔の名前を呼んでも、翔は起きない。
気づくと葉月の目から涙がこぼれ落ちているのが自分でもわかった。
「翔、お願い、目を覚ましてっ! 私、まだあなたに伝えないといけないことがあるんだよ!」
葉月の涙は止まることなく、大粒の涙が次から次へと溢れ出していた。
「うう……翔……お願いだよ……」
次の瞬間、葉月の涙が翔の頬に伝い、翔は目を開けた。葉月と目が合うと、
「…………葉月さん」と翔は呟いた。
「翔! 私が、わかるの……?」
「何言ってるんですか。わかるに決まってますよ」
「嘘……記憶が、戻ってる」
信じられない。今までずっと戻らなかった記憶がようやく戻った。
驚いている葉月を前に、翔は起き上がった。
「駄目。動かないで」
「俺、別に平気ですよ。寝てるふりしてただけなんで」まるで平気そうに翔が言った。
実際、翔はピンピンしているように見える。
「ええ? 私すごい心配したんだよ?」
翔は笑いながら、「ごめんなさい、葉月さんがどんな反応するか見たくて、つい」と言った。
葉月はそんな翔を見て呆れたが、すぐに、「もー」と泣き笑いしながら言った。
翔も葉月につられて一緒になって笑った。
「ところで、さっき葉月さんが言ってた『伝えないといけないこと』って何だったんですか?」
「えっ、えーと。何のことだったかな?」
「誤魔化しても無駄ですよ。俺、この耳でちゃんと聞いてましたからね」
「ええ……」
葉月は躊躇った後、「好きだよ、翔、大好き……!」と言って翔に抱き付いた。
「俺もです。葉月さん」
翔も葉月を抱き締めた。そして二人はそっとキスをした。
あれから葉月は日を置いて、翔を訪ねに二回ほど高校に行った。
本当はもっと会いに行って話したかったのだけど、場所が高校と言うこともあって慎重に行動した。
高校に訪れた際は翔との間に起こった出来事を断片的にではあったが、翔に話すことができた。
でも、記憶を思い出してくれることはなかった。
それどころか、三回目でついに、『迷惑ですから、もう高校には来ないでください』とはっきりと翔に言われてしまった。
一応覚悟はしていたけど、面と向かって言われるとさすがに心も折れてくる。
でも今日は仕事が休みで、翔に会いに行くこともない。
特に予定がなかった葉月は国営昭和記念公園にやってきた。
ここは以前、翔とピクニックをした場所だ。
この場所を選んだのは、暇をつぶすためでもあるけど、自然に囲まれながらリフレッシュをするためでもある。
早速、“みんなの原っぱ”にある大きなケヤキの木の下まで来ると、鞄の中からレジャーシートを出して芝生の上に置き、葉月はその上に座った。
(どうしたら記憶を思い出してくれるんだろう……)
葉月が考えていると、どこからかサッカーボールがころころと転がってきた。
「すみませーん! ボール取ってくださーい!」と、小学生くらいの男の子が遠くから葉月にお願いをしてきた。
「はーい!」
葉月は立ち上がって男の子に向かってボールを蹴飛ばした。
ボールは男の子の元へ無事に渡り、「ありがとうございまーす!」と葉月にお礼を言って、男の子は友達の元へと去って行った。
微笑ましいなと思った葉月は、座って翔の記憶を思い出させる方法について再び考えた。
考えるだけではなくて、時折、深呼吸をしたり、芝生に寝転んで何も考えない時間も作った。
それから長い間考えたが、何もいいアイデアは思いつかなかった。本当はここにリフレッシュしに来たつもりだったのに、結局翔のことを考えてしまった。
後悔しながらも、段々と辺りが暗くなってきて、閉園の時間も近づいていたため、今日は帰ることにした。
立ち上がってふと横を見ると、葉月は目を丸くした。
「翔……」
そう、葉月の目の先にはケヤキの木を見上げながら立っている翔がいた。
どうしてこんなところにいるんだろう。
しばらく翔の様子を伺っていると、葉月に気づいて翔がこちらを向いた。
「あっ、あなたは……」
「偶然だね。こんなところで会うなんて。何でここにいるの?」
「何か自分でもよくわからないんですけど、前にここに来たって言う記憶があって。でも、何があったか思い出せないんですよ。だから今日来てみたんです。ここに来たら何か思い出せるかなって思って」
「えっ、それって……」
翔の記憶が少しだけ戻っている。これまで翔に思い出を話した成果が出たんだろうか。
「あなたは、どうしてここにいるんですか?」
「私はリフレッシュするために来たんだよ。でも、もうすぐ閉園の時間だし、帰ろうと思って」
「そうですか。俺はもう少しここにいます」
「わかった。気をつけて帰ってね」葉月はそう言うと、帰り道を歩いた。
本当はあそこで、「ここは前に私とピクニックをした場所なんだよ」と教えるべきだったのかもしれない。
でも、ただでさえ翔に迷惑がられているから迂闊なことは言えなかった。
きっとまた話せる日は来るだろうから、その時ちゃんと伝えよう。
帰り道の途中、歩道橋を渡っている時に、最近あまり寝ていないせいか頭痛がした。
これくらい何ともないと思い、油断して階段を降りようとすると、突然、目眩がしてふらついた。
そして葉月はそのまま足を滑らせた。
「きゃっ……!」
もう駄目だ、落ちる……っ!
と思った瞬間、誰かが葉月の体を抱き締めた。
葉月とその人は二人で階段の下に向かって勢いよく転がっていった。
コンクリートの硬くて冷たい上を、横向きになった体が何回も回転した。
後ろで抱き締めている人が、必死で葉月の頭を守りながら耐えているのが葉月にはわかった。
やがて地面まで転がり落ちて、回転しなくなった。
葉月は恐る恐る目を開けた。
「私、生きてる……!」
ふと後ろを見ると、なぜか目の前に翔の顔があった。
「翔⁉︎」
翔は気絶しているのか目を閉じたままだった。
葉月は起き上がって翔を軽く揺さぶった。
「翔……ねえ、起きて」
何でここに翔がいるのか、何で自分を助けたのか、頭の中は混乱していた。
翔はまだ目を瞑ったままだ。
「翔、ねえ、翔……っ」
何度翔の名前を呼んでも、翔は起きない。
気づくと葉月の目から涙がこぼれ落ちているのが自分でもわかった。
「翔、お願い、目を覚ましてっ! 私、まだあなたに伝えないといけないことがあるんだよ!」
葉月の涙は止まることなく、大粒の涙が次から次へと溢れ出していた。
「うう……翔……お願いだよ……」
次の瞬間、葉月の涙が翔の頬に伝い、翔は目を開けた。葉月と目が合うと、
「…………葉月さん」と翔は呟いた。
「翔! 私が、わかるの……?」
「何言ってるんですか。わかるに決まってますよ」
「嘘……記憶が、戻ってる」
信じられない。今までずっと戻らなかった記憶がようやく戻った。
驚いている葉月を前に、翔は起き上がった。
「駄目。動かないで」
「俺、別に平気ですよ。寝てるふりしてただけなんで」まるで平気そうに翔が言った。
実際、翔はピンピンしているように見える。
「ええ? 私すごい心配したんだよ?」
翔は笑いながら、「ごめんなさい、葉月さんがどんな反応するか見たくて、つい」と言った。
葉月はそんな翔を見て呆れたが、すぐに、「もー」と泣き笑いしながら言った。
翔も葉月につられて一緒になって笑った。
「ところで、さっき葉月さんが言ってた『伝えないといけないこと』って何だったんですか?」
「えっ、えーと。何のことだったかな?」
「誤魔化しても無駄ですよ。俺、この耳でちゃんと聞いてましたからね」
「ええ……」
葉月は躊躇った後、「好きだよ、翔、大好き……!」と言って翔に抱き付いた。
「俺もです。葉月さん」
翔も葉月を抱き締めた。そして二人はそっとキスをした。