政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

理仁は短く答えてから手を伸ばして水を止めた。静けさがふたりの周りに満ち、菜摘の心臓だけがその音をやけに強調する。

くるりと反転させられ、理仁に向かい合った。
このまま続けて唇以外へキスされるのは、いつもの流れで知っている。だから目線を上げられず、理仁の胸もとあたりで彷徨わせた。


「菜摘」


名前を優しく呼び、頬を両手で包み込んで額にキスをひとつ。続けざまに瞼やこめかみ、頬にもゆっくり時間をかけて落としていく。
彼の唇が思いのほか熱いせいか、それが伝わり菜摘自身の体温も上がる気がした。


「菜摘」


囁く声が途方もなく甘い。
そっと瞼を開けると、そこに熱を孕んだ理仁の瞳があった。強制的に目が合い、逃げ場がない。身じろぎひとつできず、息を詰めて見つめ合った。

いつも茶化すようにしていたキスと違う。そう直感する。
吐息の熱さが、甘い声が、冗談ではないと感覚的に訴えてきた。
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