政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

「あ、あの、ふつつか者ですが、どうぞよろ――」


形式ばった挨拶に逃げようとしたそばから、理仁に抱き寄せられた。


「やっと菜摘を抱ける」


耳もとで囁かれて息が止まる思いがする。

理仁は菜摘を一度ギュッと抱きしめた後、体を引き離した。間近で強制的に合わされた目はほかに行き場がなく、彼の瞳はライトの明かりと一緒に菜摘を映している。


「キミのおじい様には『早く夫婦になりたい』なんて優しい言葉で言ったけど、ただ単に菜摘を早く手に入れたかったんだ。菜摘の全部を」


一点の曇りもない目で強く求められ、菜摘の心も理仁を欲して胸が高鳴る。それに押し出されるようにして想いの欠片が口から零れた。


「理仁さん、好きです」


言った途端、彼の瞳が揺れる。菜摘の頬を両手で包み込んだ。
< 291 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop