政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
◇◇◇◇◇
郁子とのランチを終えて帰宅すると、玄関先に立つスーツ姿の男性の背中が見えた。砂を踏みしめて小走りに近づいた菜摘の気配に気づき、その人が振り返る。
「竹之内さん、こんにちは」
佐々良イチゴ農園も加盟しているJAの職員、竹之内郷だった。
くりっとした目に通った鼻筋、少し明るめのくせ毛のせいか一見すると軽い印象を受けるが、真面目でとても頼りになる好青年である。菜摘よりふたつ年上の二十九歳で、月に何度か農園に顔を出している。
「菜摘さん、留守かと思いました。……あ、買い物ですか?」
額に浮かんだ汗をハンカチで押さえながら、菜摘が提げていた袋を見やる。
「はい、ちょっと」
中身は明日使う大事なものだ。
「それで今日はなにか……?」