政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
「たしかにここ数年はあれこれと縁談を持ち込んできたけどね。でもそれは、俺に結婚の気配がまったくなかったから。社長としての仕事さえきちっとすれば、結婚相手は好きに選んでいいと言ってる。お姉さんとの結婚も了承済みだよ」
なんと理仁の両親まで賛成していると言う。
盛大な反対でもされていれば、それを理由になんとかできると考えたのにそれもあてにできないときた。
信号が青になり、再び車が走りだす。
理仁の視線が外れ、菜摘はひとまずホッとして静かに息を吐き出した。
八月上旬の午後の日差しはまだ強く、目眩を感じるほど暑い。それでなくてもウィッグの中は蒸れているというのに、車から降りた菜摘を太陽が容赦なく射す。
切り取ったランナーから育てた苗に適した生育温度は十八度から二十五度。暑さに強くないため、空調の効いた小屋で株を増やしている最中だ。天井から散布して水やりができるため楽でも、タイマー機能がないのでひと手間必要だ。
理仁を従えて小屋に入り、散水のスイッチを入れた。
「去年ここを案内してもらったときは、まだホースで水やりしていたよね」
「そうですね、あのとき……」