紅に染まる〜Lies or truth〜


「どうぞ」


「ありがと」



目の前に差し出された香り立つコーヒーカップを両手で持つと

ユラユラと上がる湯気の向こうに座った杉田を見た


「田嶋和臣」


「っ!!」


「田嶋麻織」


「・・・愛様、それをどこで」



ポーカーフェイスの杉田の顔が崩れた


「どこまで知ってる?」


「愛様・・・。」


「知ってることを話して!」



杉田の顔に陰りが生まれる


「いい?知りたい訳じゃない!此処へ来たのは単なる答え合わせだからね」


兄のルーツは洗いざらい調べ尽くした
だから知りたいのは情報じゃない


「私が知り得る全てをお話しします」


胸に手を置いたまま
静かに口を開いた杉田は

兄が引き取られるまでの話をした


「知らないのは私だけ?」


「愛様」


自虐的に笑うと杉田の瞳が揺れる


「田嶋では緘口令《かんこうれい》が敷かれていた訳ね?」


「・・・はい」


「そっか」


父の身代わりになった兄の両親
独身の父が兄を引き取って育てるのは
想像もつかないくらい大変だったと思う

でも・・・

それが黙っている程の理由になるはずはない

もしかしたら・・・
狙われているのがわかっていたなら?
偶然じゃなくて車を貸したのなら?


ドス黒く渦巻く胸の内を抑えながら


「ご馳走さま」


コーヒーを飲み干した


「じゃあね」


颯を呼ぶと聞かない杉田を説き伏せてタクシーを捕まえた

< 103 / 227 >

この作品をシェア

pagetop