紅に染まる〜Lies or truth〜



「姫ちゃん、どうした?」


「田嶋和臣」



その名前を出しただけで
翠龍さんの顔が哀しみに歪んだ


「そうか、知ってしまったか・・・」


この反応だけで真相に触れた気がした


「はい」


「それをどこで?」


「襲名披露パーティーで」


「そうか」


「一平はこのことを・・・」


「知っとる」


「・・・?」


「あれは、免許を取りに行く時だったかな」


昔を思い出すように遠くを見つめた翠龍さんは

ポツ、ポツとその頃の話を始めた

18歳で車の免許を取りに行く為の書類を揃えていた兄は

住民票を取る段階で気がついた

その足で翠龍さんの所へ来て
事の真相に触れたという


11年も前に
・・・兄は知っていた


知ってて兄妹のフリをしていた?
だから跡継ぎが私だったのか・・・

腑に落ちなかったことが
父の子じゃないというだけで

ストンと胸に降りてくる
 

「姫ちゃん?」


眉毛の下がったままの翠龍さんと
視線を合わせるだけで

声が出てこない



「一平が兄じゃないと知ってどう思った?」


「一平はルーツを知ってからでも優しかっただろう?」


「一平にとって姫ちゃんは命より大事な宝物だからな」



口を開くと泣き出しそうで俯く


兄のことは誰よりも知っているはずだった

私のことは誰よりも兄が知っている

闇の中に堕ちながらも
兄妹で寄り添ってきた日々を想うだけで

堪え切れない涙がポトリ、ポトリと
溢れて落ちた


















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