紅に染まる〜Lies or truth〜
戸惑

繁華街のメイン通りを逸れると
人並みが途切れた

それにしても

既に酔っ払いやら飲み会の団体やらで溢れる繁華街の通りを歩いたのに

私が動くだけで道が出来た

キャッチに声を掛けられるかな?とか少しでも考えた自分が笑える

龍神会の力を感じながらそれらを通り過ぎると真新しいビルに入った

花輪が所狭しと飾られたビルも
お披露目が終わったばかりの私のもの

確か・・・

エレベーターで最上階に降り立つと
一軒しかない扉の前の黒服が頭を下げた


「いる?」


「はい、ご案内いたします」


長髪を後ろで一つにまとめた
美しい黒服の後に続くと

ネオンの街が足元に散らばる個室へと通された

ソファに深く腰掛けると
ギシっと良い音がした



「いらっしゃいませ愛様」



入り口で跪いたのは
奥野慎太郎《おくのしんたろう》

杉田の後継を考えている一人だ

南の街へ出掛ける時は必ず奥野を連れて出掛けたこともあって

一番触れ合ったことがある目かもしれない


ソファに座る私を見上げる瞳が
ここに来た理由を探っている

フッと頬を緩めると
緊張の糸が切れたのか
頬を赤らめた奥野


「シャンパン」


「畏まりました」


「それから・・・」


「はい」


誰も通すなと言うつもりの口が


「いや、なんでもない」


どうせ見つかっているはずと諦めた


この先に龍神会の事務所がある
間違いなく途中ですれ違っているはずの組員達によって

私のことはバレている

手首の時計に一瞬視線を落とすと
運ばれてきたグラスの中の泡を見つめ直した


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