紅に染まる〜Lies or truth〜


「チッ・・・連れてきて」


断るつもりが颯の策にハマった


「愛」


今度は少し不機嫌な顔をした颯が隣に座った


「何?」


三杯目を飲み干したのに
ちっともやって来ない酔いに苛々していた


「心配した」


それだけ言うと同じように深く腰掛ける

颯の視線が私を見てることは分かったけれど

ずっと窓の外を眺めていた

暫くはそれに付き合っていた颯も
勝手に飲み物を注文すると
お喋りを始めた

食事の時間に私の部屋を訪れて
留守を知ったこと

慌て過ぎて靴も履かずにバトラーの居るエントランスへ降りたこと


「乗ったタクシー会社が口が固くてさ」


勢に任せて声が大きくなる颯


「静かにできないなら帰って」


漸く視線を合わせると


「愛、泣いたのか?」


伸ばした指が頬を撫でた


「・・・」


そういえば化粧をして出かけたから
翠龍さんの前で泣いた跡が残っていてもおかしくない


「愛?」


「ん?」


「口紅も」


口元へ移った颯の視線が
一瞬鋭く細められた

頬を撫でていた指が
唇へと移る

なにか確信を持ったかのような視線が合わされると


「なにかあったか?」


声色が低くなった


「・・・なにも」


「そうか」


「うん」


唇の輪郭をなぞるように触れる指が止まると
颯の体温が指から放出されるように熱い

これ以上面倒なことはごめんだと
颯の胸を押して離れた
















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