紅に染まる〜Lies or truth〜




「帰る」


「ん」


いつものように片手は私のバッグを持ち
もう片方は繋がれた


「愛様」


慌てて駆け寄る奥野の目が
繋がれた手を見て鋭く光る


「護衛らしいよ」


誤魔化すように声をかけると


「またお越しください」


隙のないお辞儀をした


「またね〜」


別れの挨拶もさせない無作法な颯に手を引かれ
エレベーターに乗り込む

デジタルパネルの1をタップすると
矢印が流れ始めた


「・・・っ!」


急に引き寄せられて颯の腕に抱かれる


「・・・苦しい」


解くことは簡単だけれど
颯は理由も無しにこんなことはしない

そう思い直して
大人しくすることにした


「愛、誰かに会ったのか?」


「ん?」


「知らない匂いがする」



あ〜そういうことかと納得した


「誰にも会ってない」


「嘘だ」


「どうして嘘だと思うの?」


「・・・口紅が」


「口紅?」


「唇の外へはみ出してる」


なんだか色々可笑しくて

「フフフ」
笑ってしまった


「なにが可笑しい?」


不安そうだった声に力が入った


「浮気を疑ってる女子みたいじゃん」


そう言うと閉じ込めていた腕が解けた隙に抜け出す

タイミング良くエレベーターも一階に着いた

小走りに通りに出ると少し先に人集りを見つけた

色めき立つ女達の声が耳に入ってくる


「若頭よ、今夜は誰かしら」
「私たちも早く行きましょ」


・・・一平がいる?


颯の存在を忘れたかのように
人集りに吸い寄せられた私が見たのは



私と同じストレートの黒髪をした女の腰を抱く兄だった




















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