紅に染まる〜Lies or truth〜


「先ずはここ」


そう言って車が止まったのは
大通り沿いのブティック


サッと降りて助手席側のドアをスマートに開けた兄は

出迎えた店員に車のキーを渡した


「さぁ」
と手を引かれて入った店内は
普段と変わらず煌びやかで眩い


「いらっしゃいませ田嶋様」


深々と頭を下げたのは
この店の店主

それに合わせるように


「変身しておいで」


繋いだ手を解いた兄は
首を傾けて笑顔を見せた


・・・少し早いクリスマスプレゼントかな


そんなことを思いながら
ディスプレイを見て回る

月に一、二度ほどの兄とのデート

この時ばかりは等身大の女子高生に戻れる時間

普段は陰としての仕事を全うする龍神会の要

今は兄と過ごす時だけ地味子から抜け出せるから

仕事を始めてから兄は
こうして羽を広げる時間を作ってくれる


誰よりも私を理解して


誰よりも私を愛して


誰よりも私を自然体にする


大好きな兄



立ち止まって視線を向けると
必ず微笑んでくれる兄に安心して

真っ白な綿毛のような
ミニのワンピースを手に取ると

試着室へと入った


「いかがでしょうか」


入った扉とは別の側からかかる声に反応する

入ってきたスタイリストは
‘よくお似合いです’とありきたりな言葉を並べた


「では、こちらへ」


誘導されたのは
一面鏡張りの部屋

促されるまま椅子に腰掛けると

三人掛りでヘアメイクを施された

幾重にも重なる編み込みをまとめ上げたアップスタイルに完璧なメイク


「別人」


心の声がダダ漏れなほど変身した自分にクスッと笑い

ブーツに履き替えると
試着室を通り抜けて兄の待つ店内へ戻った




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