紅に染まる〜Lies or truth〜


「お待たせ」


ソファ席でコーヒーを飲んでいた兄に声を掛けると

僅かに見開いた瞳が表情を崩したけれど
すぐに蕩けるような笑顔に戻った


「愛は可愛い」


サッと立ち上がると
恋人をエスコートするように
腰を抱いて店を出た

スマートにこなされるそれ

支払いは?とか
制服は?とか

考えるより先に車は走り出していた

もちろん

後部座席にチラッと見えた紙袋に
制服は入っているだろうし

支払いもメイクの間に済まされている


将来もしも魔が刺して恋が出来るのなら・・・
兄を超える人じゃないと無理

そんな
絶望的な想いだけ生まれた時間だった


「高校を卒業したら・・・」


「ん?」


「隠さなくて良いよ」


そう言ってスタイルを崩さないようにポンポンと頭を撫でた兄は

小、中、高校とひたすら地味にしている私のことを気にかけてくれていて

解放しても良いんだよって
優しい言葉をくれる


「だって本当はこんなに可愛いのに」


甘い言葉で喜ばせるのも
温い時間に酔わせてくれるのも

やっぱり兄だけだと思う


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