紅に染まる〜Lies or truth〜
慈愛

海岸線を走る車の中は
いつものクラシックも流れていないけれど

お互いを想いながらの空間は
少しも嫌じゃない


「本当は愛が高校を卒業したら話すつもりでいた」


覚悟を決めたのか話し始めた兄の声は低く落ち着いていて丁寧に言葉を選んでいる


「生まれたばかりの愛を抱いて、一生守るって決めたのが12歳の時だ」


・・・妹としてだよね


「温かかった」


「・・・」


「愛おしくて」


「・・・」


「その温かさに涙が出た」


「・・・」


「それと同時に独占したくなった」


「・・・」


「愛の全てが欲しくなった」


兄の紡ぐ言葉が胸に響いて鼻の奥がツンとする


「でも・・・愛は妹で」


兄の声が震えている


「だから、距離を置いた・・・
離れられなくなる前に心を殺した」


家を出て組長と連むようになった頃のことだろう・・・

あの頃の私は兄に置き去りにされたとしか思っていなかった


「・・・」


「離れたって気持ちが変わることなんてないのにな」


「・・・」


「愛」


「ん?」


「ここからの話は重いかもしれねぇ、いいか?」


「うん」


そんなのとっくに覚悟してある


「俺は、妹とわかって愛していた」


「・・・」


「血も距離も期間も俺には関係なかった」


「・・・」







「ただ愛を、心から愛しいと思ってた」



















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