紅に染まる〜Lies or truth〜


「ドライブしようか」


「うん」


夕食までの時間潰しのドライブは
実は兄との大切な時間だったりする

子供の頃から羽を捥がれた私は
ストレスが溜まると癇癪を起こした

父も母も三崎も止められない私を
根気強く宥めてくれたのは兄

半ば強制的に連れ出され
その頃乗っていた流線形のスポーツカーで

爽快に走ってくれた

ただそれだけ

ただそれだけのことで
理不尽な世界でも悪くないと思えた

兄が居なければ
精神が崩壊していたかもしれない



兄はたまに冗談のように口にするけれど

私は本当にそうだったと
揺るがない想いで感情を殺した


「今日、犬に会った」


「クッ、颯か?」


「そう」


「そのことだけどな・・・」


運転しながらチラッとこちらを見ると


「しばらく警護を強化する」


「え?」


それっきり警護については触れない兄

ということは・・・
理由は聞くまでもない

どうせ反対したところで
状況が変わるなんてことは無い
寧ろ、更に護衛が増やされるなんて
まっぴらごめんである


「・・・颯な」


そう言って話し始めた兄の声が
いつもより楽しそうで
颯を可愛がっていることが窺える

チラッと盗み見た兄の表情はいつもと同じで
どこかホッとしている自分

兄の優しい笑顔を独占できるのは
妹の私一人で充分だから

そんな欲を思いながら
空想を膨らませた私に


「聞いてたか?」


信号待ちで顔を覗き込んだ兄のドアップが間近にあって焦った


「・・・っ」


頭を撫でられて俯いた私に


「愛は可愛い」


いつものように甘い言葉をくれた























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