紅に染まる〜Lies or truth〜

夕方のビルの谷間は少し風が強く吹いて
本格的な暑さを感じてきた肌に心地よい



「冷たいうちに飲めよ」



紅太はそう言うと炭酸水のボトルをチラ見した



「うん」



蓋を開けるとプシュと良い音がした



「いい顔してるぞ、愛」


「そぉ?」


「あぁ、アイツ等のお陰だな」


「双子のこと?」


「LーDragonの奴らのこと」


「うん」


「一人で買い物が出来るようになるなんてな」


「・・・」



西の街では考えられない様子を
思い出してため息を吐いた



「俺は賛成」


「なにが?」


「向こうに帰ってもできるようになるさ」



こっちに来てからの私の動きを知っているのだろう



「気持ちが固まった」


「だろうな」


「こっちが終わったら組長を説得する」


未来の組長の子供が出来るまでの繋ぎとして若頭を襲名した一平の役を奪うのだ

その覚悟は出来た



「その必要はねぇ」


「え?」


「兄貴は全部お見通しだ」



なんでと浮かんだ頭を見透かすように



「一平さんとのことも、南《こっち》でのことも。
それで・・・進むべき道も」


「うそ」


「龍神会を束ねる組長だ」



そうだ・・・そうだった
組長は全て理解した上で動いている人だった



「愛が二ノ組を手放すなんて有り得ねぇ」



生まれながらの呪縛から解放するという
一平の希望は南《こっち》に来なくても
元より実行できない道だったのだ


そう頭で理解した瞬間
更に気持ちが楽になった



「一平さんは愛の側に居る、一生」



想いを遂げた後も
揺るがない位置にいる


「そうね」


フッと表情を緩めた紅太は


「二ノ組がどデカくなるのを楽しみにしてる」


それだけ言うと
頭をクシャクシャと撫でた


その手を外した途端に双眸が鋭く細められる

その変わりように息を飲んだ


「んで?飯、食ってねぇのか?」


「・・・」
核心を突かれて言葉が出ない


「アイツら気付いてねぇのか?」


「・・・」
必死で誤魔化しているのだから
毎日側に居れば変化には気付き難いはず


「ガリガリになりやがって・・・
飯も喉を遠らねぇほどなら
早く帰って素直になれ」


ぶっきらぼうだけど
その尤もらしい言葉に


「うん」
素直になれた


「じゃあな、身体大事にしろ」


紅太はそれだけ言うと立ち上がって背を向けた











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