紅に染まる〜Lies or truth〜



これまで私は、ニノ組を継ぐ身として
結婚は出来ないと思ってきた


誰かを巻き込むくらいなら



陰で生きて陰で終わる覚悟をしてきた


孤独で辛い陰の仕事


冷酷さを失ってはいけない陰の仕置き


感情を殺すことが善
情けをかけることが悪


そんな嘘のような世界


そこに身を置くことに
迷いは無かったはずなのに


一平はそんな覚悟を簡単に壊そうとする


一平の私を見る瞳は
揺るがない強さを持っていて
私の心を惹きつけて止まない



「直ぐに出さなくても逃げないのに」



少し茶化してみたものの



「あぁ」



更に穏やかな表情になる様子を見て
“違う”と気付いてしまった


不安なのは私・・・だ


これまで四六時中一緒に居た訳じゃないけれど

常に一平を感じられていた

しかし・・・
南での二週間は体調不良を起こすほど

その存在は大きかったのだ


一平が父に頭を下げてまで性急に婚姻届を用意した意味が納得できた



「俺の人生、丸ごと愛のもんだ」



これまで一平が与えてくれる
この温もりを心の拠り所にしてきた

それをより深く強固なものにしようとしてくれていることに気持ちが決まる



「愛をこの手に抱いた12歳のガキの頃からずっと」



私はなんて幸せ者なのだろう・・・




「俺と生きていこう」




そう言い切った真っ直ぐな双眸に捕まった


夕陽に染められた一平の顔を見ていると胸が騒がしくなる



空の紅色を纏う姿は綺麗で妖艶


その穏やかな紅色に包まれながら
私も一平と生きたい


そう思う気持ちが口を開かせた




「一平と生きていく」




ホッとしたように目尻を下げた一平は
私の左手を持ち上げて薬指に口付けた


その仕草にも目が離せない


やがて伏せられた目蓋が再び私を捉え
柔らかに緩められた瞬間

手品みたいに現れた指輪が通された


「・・・っ」


「ピッタリ」


そう言うともう一度指輪ごと口付けた

“永遠の愛”を誓うエタニティリングは
中心に大きなダイヤモンドとグルリとリングに沿って小さな石が囲む

手を少し持ち上げて角度を変えるだけで光が乱反射するカットも綺麗で見惚れる


その輝きに緊張の糸が切れた私の
堪えきれない感情が涙腺を崩壊させた

ポロポロと溢れる涙で
一平の顔が歪んで見える


その涙を指で拭って
もう一度隙間なく抱きしめた一平は
「永遠を誓うよ、愛してる」と耳元で囁いた



「私も」




心からの想いを込める



「お婆ちゃんになっても
たとえ、骨になったとしても
ずっと、ずっと一緒に居て」


「あぁ」


「もしも生まれ変わったとしたら
また、迷わずに私を見つけて」


「あぁ、どんなに離れようとも
必ずこの手で愛を見つける」







一平と一緒に歩く先は


穏やかではないかもしれない


だからこそ
どこまでも深く強く繋ぎ止める




「一平」



嘘のような本当の世界で
未来永劫かけ続ける私からの愛の枷






「愛してる」







fin






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