紅に染まる〜Lies or truth〜

掘り炬燵に鷹の剥製、大きな壺に
重厚な掛け軸

重たい雰囲気の和室に通されると
懐かしい匂いがした


「いつものお香ですか?」


橙美さんの趣味であるお香
綺麗な香炉からゆらりと香るそれを

スーッと胸に吸い込んだ


「この香り飽きなくってね」


無邪気に笑う橙美さんに
ステキな趣味だと言うと

柔らかく微笑んでくれた


子供の頃からよく連れられて来たここは
かつては大澤組の本家だった

あの頃より翠龍さんは穏やかになったし
橙美さんは天真爛漫さが増した

掘り炬燵が大好きで
子供の頃隠れんぼに使っては
大捜索されたのもこの部屋だった


「姫ちゃん」


「ん?」


「無理しとらんか?」


「・・・」


「辛くはないか?」


「・・・」


「儂が代わってやりたい」


翠龍さんの一言一言が重くて
私のかさついた心に響いて


「クッ・・・っ、わーん」


止めようと踏ん張ったのに
押し寄せる感情の方が強すぎて

子供みたいに声を上げて泣き出した


「あらあら、姫ちゃん」


橙美さんが隣に座って
背中をトントンと撫でてくれる


翠龍さんも
「堪えんでいい」と
泣くように甘やかしてくれて

久しぶりに声を上げて泣いた






普段は曝け出せない素の自分



高校二年生の私はこんなに簡単で
単純な女の子だ












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