紅に染まる〜Lies or truth〜



「男はさ、逃げると追う習性があるんだよね」


「・・・」


「ま、逃げなくても、この場合は追いかけるんだけどね〜」


軽い口調で話す紅太を見ながら
頬が熱くなってくる


「ん?顔赤いよ?」


顔を覗き込まれて
更にドキドキが増す

スッカリ平常心を忘れた私に
追い討ちをかけたのは


「俺を覚えてないのか?・・・愛」


低くて甘い声だった


「・・・っ!」


・・・なんで?
そんな言葉だけが頭を占領して
絡まる視線を外せない


「愛、俺だ・・・紅太《こうた》だ」


思い出して欲しいと懇願する瞳が揺らいだ


「・・・知ら、ない」


三番目のモニターで見た時も
記憶に掠りもしなかった


「そっか」


肩を落として背中を向けた紅太は


「悪かったな」


傷ついた顔でアッサリと引くと
開いたままのエレベーターに乗った


「・・・なに?・・・あれ」


呟くように出した声は震えていて

火照ったままの頬を両手で挟んだ

会えて嬉しいはずなのに
胸の中に靄がかかる

扉の中へ入る前の
酷く傷ついた顔が目に焼き付いて

感情が揺さぶられる



もしかして・・・兄なら
そう考えたところで
無理だと警笛が聞こえた

兄を拒絶したばかり
こっちから切ったのに

なんて馬鹿馬鹿しい

今度は苛つく気分を払うために
ビルの外へと飛び出した















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