真夜中だけの、秘密のキス
男女共に人気のある朝岡君が、何の取り柄もない私を好きなんてあり得ないよ。
「変な男にさらわれないか不安で不安で、俺の寿命、縮まりそ」
何やらボソボソつぶやいている朝岡君。
さっきの付き合おうっていう話は、もういいのかな?
すっかり忘れている様子だし、冗談だったみたい。
「玲香ちゃん。このあとって予定ある? 良かったら俺とデー……」
朝岡君が何か言いかけたとき。突然、彼の胸元からスマホの着信音が鳴り響いた。
「──やばっ」
すばやく後ろを振り返った朝岡君は、なぜか校舎に向かって敬礼を始めた。
「何してるの?」
よくよく目を凝らすと、三階の窓に誰かが立って、こちらを見ている様子。
こんなに遠いのに、黒くて鋭い殺気を感じる。
あれ?
あの人影って……。
「はあ。やっぱり見張られてたか」
足早に校門を出て、その人の視線から逃れた瞬間、朝岡君が額の汗を拭う仕草をする。
「さすがに盗聴はされてないよな」
「あの。今の人って、……久木君?」
「えっ」
あからさまに目を泳がせるので、それが答えとなった。
「んー、瑛翔も心配なんじゃないかなぁ。もう、自分では玲香ちゃんを守れないから」
久木君は遠くから見守ってくれているということなのかな。それなら少し安心。
「玲香ちゃん。変な男に捕まらないでね」
「え……うん」
「俺もずっとそばにいられるわけじゃないから」
朝岡君はどこか寂しげに言って、私を真っ直ぐ家まで送ってくれた。