真夜中だけの、秘密のキス



椿高校の黒いブレザーに身を包み、鏡で全身を確認する。

襟に縁取られた赤いパイピング、それから赤いラインの混ざったチェックのスカートがお気に入りだ。

癖のあるキャラメル色のロングヘアをブラシでとかし、彼のことを思い浮かべる。


今日も目が合ったら嬉しいな。

それだけで一日中幸せな気分を維持できる。





学校までは徒歩で20分弱。

近いからこの学校を選んだというのもあるけど。
決め手は、好きな人が椿高校に入るという情報を得たから。


家の近くの交差点を曲がったとき、見覚えのある後ろ姿を発見する。

癖のないグレージュの髪が、日の光に反射して綺麗。



「おはよう、久木《ひさぎ》君」


思い切って声をかけると、彼が緩慢な動作で振り向いた。


「……はよ」


あくびでもしそうなくらい、気だるげな雰囲気。

それでも返事をしてくれたのが嬉しい。


中学のときは、ただ見ているだけで何も行動はしなかった。

それを今も後悔していて、できるだけこうして接点をもつようにしている。

……鬱陶しく思われない程度に。



「あのね、久木君」

「……何?」
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