真夜中だけの、秘密のキス
「バレンタインの日って、予定ある? 少しでいいから、時間もらえないかな?」


勢いで聞いてしまってから、顔が急激に火照ってくる。

変に思われないように、冷静に冷静に……。


「バレンタインって何日だった?」

「えっ。14日だよ。2月14日」


何日だったか忘れるなんて、イベント事に興味がないのかな?

彼女はいないみたいだけど……。


「ん。いーよ。あけておく」

「……本当? ありがとう」


笑顔でお礼を言ったら、何だかすでに告白しているみたいな気がして焦り出した私。


「あっ、じゃあ、先に行くね!」


赤くなった顔を見られたくなくて、勢いよく走り出した、つもりだった。


「っ、きゃあっ」


横から飛び出してきた自転車に、ぶつかりそうになる。

よろけた所を、誰かに抱き留められた。


「──あっぶねえな」


見上げた先には鋭い瞳。


「何やってんだよ」


久木君の筋肉質な腕が、私の体をしっかりと支えてくれている。


「ごめん、なさい」

「全く。危なっかしいよな、昔から」
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