真夜中だけの、秘密のキス
呆れたような笑顔を向けられ、ドクンと胸が高鳴った。


「髪、乱れてる」


体を離す際、ついでみたいに私の髪を撫で、整えてくれた。柔らかく、目を細めながら。


「あ……、ありがとう」


彼の笑顔が、私だけのものだったらいいのにな。






「おはよう、玲香ちゃん」

「おはよう」


教室に入り真っ先に声をかけてくれたのは、伊崎(いざき)茉莉恵(まりえ)ちゃん。

清楚で真面目な雰囲気の女の子だ。

サラサラの黒髪と白い肌で、男子から密かに人気があるけど、彼女には付き合っている人がいる。


同じクラスの、榊野《さかきの》未来《みらい》君。

頭が良くて、皆から頼られている優等生。


優しい彼で羨ましいなって思うけど、彼氏を作るのは自分で努力するしかない。


「玲香ちゃん、見たよ。久木君と一緒に登校してなかった?」

「そうなの……今朝、たまたま会って。バレンタインのこと聞いてたんだ」

「やっぱりチョコ、あげるの?」

「うん。あげるつもり。中3のときは渡しそびれたから」

「今年こそ渡せるといいね」


茉莉恵ちゃんが優しく微笑んでくれて、勇気をもらった気分になる。
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