黒王子の溺愛
書類に目を向けたままの柾樹の、拒絶のような言葉を聞いて、美桜はくるりと身体を翻して、部屋に向かった。

涙が頬を伝うのを、こらえることが出来なくて、ベッドで枕に顔を埋める。

違うのに…。
そんなつもりはない。

新婚さんごっこが、したくてここに来たのではない。

本当に柾樹と、結婚をするつもりで、来たのだ。
そんな風に、見えるのだろうか?

「美桜…」
枕に顔を埋めていて、柾樹が部屋に来たのに気づかなかった美桜だ。

「…っ、ごめんなさい!気付かなくて。」
慌てて涙を拭くと、枕から顔を起こして、美桜は笑顔を作る。

柾樹はつかつかっ、と歩いてくると、ベッドにいた美桜の上に乗った。
そして、頬の涙の跡を、指で拭ったのだ。

「なにも、しなくていいんだ、君は…」
「ごめんなさい。私は…柾樹さんに、喜んでほしかったんです。」

すうっと、息を吸う音。
それを聞いた柾樹は、美桜を突然、ベッドに押し倒す。

「柾樹さん…」
とても近い距離で顔を覗き込まれて、頰を撫でられる。

眼鏡の奥の瞳は、相変わらず表情が読めない。
けれど、その顔に覗き込まれて、美桜はどきん、とした。

美桜の抵抗は、柾樹に呆気なく押さえつけられる。

「俺を喜ばせたいんだろう?」
「それは…はい…。」

「じゃあ、逆らうな。」
そう言って、柾樹はブラウスのボタンを外し始める。

「え…ちょ…柾樹、さんっ…」
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