黒王子の溺愛
黒澤は誰よりも早く出社し、仕事を始める。

秘書からは、会社の規模からしたら、社長の黒澤がそこまでやらなくても回っていくのだから、定時に来てください。
部下に示しがつかない。
と最近は叱られるようになった。

それでも、この、なんでも自分の目で確認をしないと収まりがつかないのは、性格なのだから、仕方ない、と思う。

確認をしながらも、つい、目がいってしまうのは、入口のキャビネの上に置いてある、今朝、美桜が渡してくれた紙袋だ。

──ベーグル…って何だ…?

パソコンの今まで開いていた画面を閉じ、検索画面を開く。

『小麦粉の生地をひも状にのばし、両端を合わせて輪の形にして発酵させ、茹でた後にオーブンで焼いて作られる。
この製造法により、外側はカリッと焼き上げられ、内側は柔らかくてもっちりと詰まった歯触りになる。
乾燥を防げば品質は数日間保たれる。また、水分量が少ないので、冷凍保存なら家庭用の冷蔵庫でも1ヶ月程度は充分に保存できる。·····云々』

パン…のようなものか。
デスクの前から立って、紙袋を手にして中をそっと覗いてみた。

綺麗な小さい風呂敷に包まれているのは、美桜らしい。
ふっと笑みが溢れて、取り出してみる。
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