黒王子の溺愛
そこで、ジャケットを羽織り、玄関の全身鏡で、スーツをチェックして出るのが、柾樹のルーティンのようだ。

スーツのボタンを留め、綺麗に伸ばしてから、カバンを手にする。

「行ってくる。」
「はい。あ、柾樹さん、これを。」
美桜は小さな紙袋を渡した。
柾樹が小さく首を傾げる。

「ベーグルサンドです。小さくしてあるので、いつでもお口に入れられます。お時間のある時に食べてください。」
「あ…りがとう…」

──受け取ってくれた。良かった…。

驚いているのか、表情がなくなってしまった柾樹に、美桜は笑いかけた。
「行ってらっしゃいませ。」
「ん…。」

柾樹の手が美桜の頬に触れる。
少しだけ、頬を撫でてふわりと笑った。
「行ってくる。」

そう言って出かけた柾樹を、美桜はぼうっと玄関で立ったまま見送った。

笑顔…、笑って…くれた…。
素敵過ぎて…、し、死んじゃうかと思った……。
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