黒王子の溺愛
「最近はそんな風に何でも、ナントカ王子とかつけるから…。」
舌打ちしかねない勢いで、柾樹は不機嫌になる。

実力があるから認められる、ことは好きだが、容姿のみを褒められることは、あまり好きではないのだ。

男なのだから、実力あってのものだろう。
黒王子、なんて。

そもそも王子なんて、王の息子なわけだから、親の七光り感が半端ない。
若造扱いされているようで、気にいらない。

「あら…でも…、王子、なんて…。」
「ん?美桜?何?」

「素敵です。柾樹さんにとてもお似合い。それに…。」
「それに?」

「10年以上も前から、私にとっての王子様ですもの…。」
美桜はこっそりと柾樹に耳打ちする。

「美桜がそう言うなら、悪くない…。」
美桜にそう言われて、ふっと笑顔になった柾樹が、さらりと指で美桜の頬を撫でる。

実のところは、その苗字と、いつも冷徹な表情を崩さないところも含めて、黒王子と呼ばれているのだが。

だからこそ、その甘い顔を見て、会場が一瞬ザワつく。

そもそも、仕事の時の柾樹は、冷静さを決して崩さず、冷徹なその判断にすら、時折ぞっと、するくらいなのだ。

「いや…さすがに美桜さんというべきか、あの黒澤くんもメロメロなんだね。」
「美桜さんも、相当に惚れ込んでいるようだしな。」

仲睦まじくて、甘い雰囲気を醸し出している二人に、会場からは、ため息が出るばかりだ。

黒澤家にとっても、藤堂家にとってもメリットであることは間違いはないが、これは一概に政略結婚でもないらしい…という空気になった。

良かったですね、と言われ続け、美桜の父も頬が緩んだ。

美桜が幸せそうで、愛されていることはなにより嬉しいことだから。

黒澤くんでよかった…心からそう思ったのだ。
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